金持ちのパーティに招待される人間は大体限られてくる。
資産家、政治家、有名著名人。中には主催者に関係がなさそうな人まで姿が見える。
主催である覇道瑠璃にとっても――開催者は祖父、鋼造であるが――見渡せば名も知らぬ者が多い。
つまりはご機嫌取りなのだ。アーカムシティ最大の資産家、覇道鋼造に対する忠誠心、これからも仲良くやりましょうヒヒヒな裏のあるご機嫌取り。
彼らの思惑がわかるから瑠璃は腹が立つ。全く祝う気のない者は即刻退却していただきたい。
勿論、自分の権限で退室させることは可能だろう。だが鋼造の手前、おいそれとは出来まい。
大好きなお爺ちゃんにはそんなはしたない姿は見せられないもん―――なんて乙女めいた考えがあるかは知らないが、彼女は鋼造の隣を歩きながら、そんな異端者に決まった言葉を掛け続けた。
「本日はお忙しい中、ご足労頂きましてありがとうございました」
本心、誰も貴方たちなんて呼んでませんよ。
そんな本心を知らないでいる、少しは名が知られている資産家の顔を見る。
脂ぎった顔。太った体。彼女にとれば汚らわしい事この上ない。彼女を舐めるように見る目つきも気に入らない。だが早く終わりたいと思う反面、これから何が起こるかという恐怖に駆られた。
視線を外して、自分が雇った探偵のほうを見る。
やはりというかなんというか。
探偵は、一つのテーブルにがっついていた。
「……汝、恥ずかしいぞ」
「ふぁ?」
スパゲッティを口から垂らし、口の周りをケチャップ塗れにしながら大十字九郎はアル・アジフに視線を移す。
その威厳の欠片もない姿にアルはもう溜息しか出てこない。子供の世話をしている母親の気分だ。
呆れながらハンカチを取り出すと、九郎に差し出した。だが彼の手は塞がれている。
何を思ったか、それとも予測していたのか。九郎はにんまり笑いながら腰を屈めてきた。
つまり―――拭け、と。
「……子供だな」
渋々拭いてしまう自分も情けない。
さんきゅ、と笑うと九郎は再び食べ始める。全然人の話を聞いていない。
折角覇道家から借りて、ばっちり決めたタキシード姿もこの有様では美しさが激減する。
何もしていなければ美形では間違いないのに、なんとも損をしている男だろう。
挙句の果てには、タキシードの袖で口元を拭おうとしていたのだから。
アルはハンカチを仕舞いながら、会場を見回した。
アーカムシティの内情については資料で調べていたアルは、この会場にいる人間の大半は知っている。
表の活動も、裏の活動も全て。
だからこそ、この多種多様の人間森林状態には目を見張った。どれほど覇道鋼造が勢力を持っているか目前で理解できた。
「こんなたくさん人間がいても、アル、お前は目立つな」
皿にこれまたたくさんの食材を乗せて、九郎がアルの隣に立つ。
「それはどういう意味だ。背が小さいなどと体質的なことを述べたら汝は生きて此処から出られないと思うがいい」
「……いや、それもあるんだが」
食べるか、と皿をアルに差し出す。無言でその中から苺を取り出し口に放り込む。ヘタは既にとってある。
「お前のその服だ。かなり露出度高いんじゃないか? しかも似合ってるし」
「―――似合ってるのか?」
アルが着ているのは、肩を露出させた黒ずめのパーティドレスだった。腕まである手袋や履き慣れないハイヒールも全て黒。全身が黒といっても仕方ないだろう。
その色彩は彼女の紫色の髪、白い肌に映えていた。体の小さなアルでもその存在を存分にアピールしていることだろう。元々素質が綺麗なアルだ。視線を向けない人間なんていないだろう。しかも今日はポニーテールではなく、ストレートに伸ばしている。彼女の紫色の長い髪が更に目を引く。
九郎が言った言葉に頬をほのかに染めながらスカートとなる部分に手を添え、持ち上げてみせる。西洋式のお辞儀のようである。自然と黒タイツに阻まれた彼女の足が出てくる。
「妾はこういったヒラヒラしたのは嫌いなのだがな」
彼女の普段着は秘書タイプのミニスカートである。翻すことが出来るスカートはアルにとれば未経験。恥ずかしさも出てくる。
これもまた覇道家からの支給品だ。アル自身は普段着でいいと言ったのだが、瑠璃が拒否。理由は「女性は皆ドレスを着て出席します。その中で貴女みたいな格好をしていた人がいれば周りが不信がるでしょう」とのこと。
納得のいく説明にアルは仕方なしに受諾。覇道家ご用達の服屋に行き、寸法を合わせてオーダーメイドまでされてしまった。
値段はどうやら覇道側持ちらしい。しかもその分は依頼料から差し引かないとのこと。九郎は涙して喜んだ。
「……寝巻きはワイシャツのくせしてよー」
「ばっ、あれはだなっ!」
顔を真っ赤にして賢明に反論しようとするアル。だが言葉が喉から出てこない。
そう、彼女は夜になるとワイシャツを着て寝る習性がある。しかもそれは九郎の物である。サイズの大きなワイシャツは彼女の小柄な体にあっており、以降彼女はそれを寝巻き代わりにしている。
もちろん下着はつけている。だが九郎が目を覚ました後、彼女を見ると必ずシャツの先から見えてしまうのだが。
口をパクパクと開いているアルの頭を、軽く叩いて制する。
「へいへい、お前のドレス姿は似合ってるよ。さぁアル。たくさん食べて大きくなれ」
そしてまた皿を彼女の前に差し出す。よく見ると肉だらけ。
「くきぃー!! 汝は絶対馬鹿にしておるなっ!」
彼女が持っている飲み物は牛乳であることは、気にしない。
「随分と賑やかだな。大十字九郎」
瞬間、二人の顔がなんとも言えない顔になる。会いたくない相手に遭ってしまった、そのままの顔に。
楽しい遠足だったのに、帰り道で人の死体を見つけてしまったような気分。
ハイテンションからローテンション。一気に彼ら二人の雰囲気が白けてしまった。
「賑やかなのはいいことだ。神は祝うことを人間に与え、崇めることを教えた。その盛り上がりに神は感動を覚え、世界に祝福を与える。 その回転は歴史が続くと同時に薄れていった。だがしかし、賑わいは今も消えることはない。これは何を示しているのか。わかるか、大十字九郎」
二人が視線を向けた先には一人の青年。まだ年も若いというのに髪が白い。どうやら地毛のようだ。
だがそんなことを吹き飛ばすかのように整えられた顔、体つき。男性であることを見事に表している筋肉の隆起が印象に残るが、少し女性のように華奢な雰囲気を残す。
いわば中性的な体つき。
見る人が見れば女性に見えるかもしれない。だが、彼の格好を見れば彼が男性であることは一目瞭然だ。
何故か。
「……それより、お前の服装どうにかしてくれ。テリオン」
九郎が彼の服装を見るなり、げんなりした顔になる。
テリオンと呼ばれた青年が着ている服装は、普通とは言い難い。何故なら素肌にタキシードを羽織っているだけなのだ。つまりその下からは彼ご自慢の腹筋がお目見えとなる。
ネクタイは首から締めるといった、風を作る歌手の如くの服装であった。今、彼の周りには寒波が襲っているに違いない。そう、テリオンは露出狂。
「ははははははははは! 妬みか、そうか妬みか。大十字九郎!」
「誰もそんなこと言ってねぇ」
「余のこの美貌と腹筋に視線を注ぐとはっ! 笑止!」
「もうこの人、意味が通じていませんのことよ?」
「この余の肌に世の人々は神をも放棄し、余に跪くのだ。見よ! この腹筋美!」
どうやらナルシストも加わっているようだ。
「……妾は何もいえまい」
苦労症のアルにとれば、もう呆れるしかなかった。
もう子供が一人二人増えようが、変態が一人二人増えようが関係なかった。
「さぁ、もっと見ろ! もっと見――――ぐはっ!!」
彼の頭上に何かが当たった。
「マスター。話が進みませんのでその辺で」
地上に降り立ち、優雅にフライパンを胸に構える少女。
アルが白とするなら彼女は黒。アルが光とするなら彼女は闇。全く相反する少女がテリオンの横に立った。
自然と二人の少女の視線がぶつかる。
「また会いましたね。アル・アジフ」
「会いたくなかったがな。ナコト写本――いや、エセルドレーダと呼んだ方が汝にとればよいのか?」
両者に火花が飛び散る。
エセルドレーダと呼ばれた少女は、一見すればアルに似ていないこともない。体格はそうにしろ、目付きが微かに似ている。
雰囲気――オーラというものには違いが見受けられる。アルが自己中心的ならばエセルドレーダは他人行儀的。自分の意思を尊重せず他人の意思を尊重する態度が窺える。
テリオンを殴った姿からは想像出来ないオーラではあるが。この際、些細なことは黙視する。
「この度はどちらにも依頼が来たとのこと。これは我々の因縁に決着をつける場所に相応しいと考えられますが、如何ですか」
「因縁? 妾には何のことか理解しかねるな。だが妾たちに敵意を向けるというのであれば容赦はしないぞ」
額をぶつけて、両者睨みつける。後にこの会場にいた者たちはこう述べる「竜虎が見えた」と。しかし九郎にとればハブとマングースくらいにしか捉えられなかった。どちらも大差ないが。
それにしても彼女たちに何らかの因縁があるにしろ、働くのは自分たち、九郎とテリオンであることは理解しているだろうか。いや、確かに労働量から換算すれば彼女たちが有利なのではあるが。
「マスターは貴方たちみたいな唯我独尊に負けるわけがありません。依頼をこちらに譲るなら今のうちです」
「九郎は汝のマスターのような露出狂に敗北を認める男ではない。そちらこそ逃げるなら今のうちだぞ」
さて、お気づきの通りこのテリオンとエセルドレーダこそ、ナイアがウィンフィールドに教えたもう一組の探偵だ。
大十字探偵事務所とは全く反対のアーカムシティでは都会の部類に入る場所に探偵事務所を構えている。その名も『ディテクティヴ・テリオン』。やはり場所がいいのか依頼がくる。テリオンの解決力もあって、収入は安定している。
いわば、大十字探偵事務所にとってはライバルになる。意外にも幼女専門探偵と大都会探偵との差はない。九郎も馬鹿で探偵を始めたわけではないのだ。理由のひとつ、探偵で名を上げてやるを掲げている男はそこが違う。
さて、その男はと云えば料理がたんまり乗った皿を持ったまま彼女らの闘争を眺めているだけだった。もう一人は現在再起不能。
本当にこんな主、探偵でいいのか彼女たちは。
話はまだ続く。
「私はマスターを愛しています。ですからこの結束された我々に立ち向かうことは無意味です。この度はその力を存分に見せ付けてあげます」
「――――ッ! それを言うなら妾もだ! 妾は九郎に限りない好意を抱いているからな。我らの連携を汝らにとくと見せ付けようぞ」
おぉ、と周りから歓声が上がる。中には拍手する者までも現れはじめた。皆、会話を止め彼女ら二人の口論に立ち会ってしまい、既に瑠璃の誕生パーティではなくなっている。
もう自分では止めることの出来ない空気に九郎はステーキにフォークを突き刺し、食べた。
「……あれ、俺何しに此処に来たんだっけ」
目的も忘れるくらいに。
そこで隣に影。振り返るとウィンフィールドの姿があった。
「大十字様。こちらが覇道財閥総帥、覇道鋼造様です」
突然の出来事に焦ったが、冷静にまだ盛ってある皿を近くのテーブルに置き、自分のハンカチで口を拭う。
向き合うとやけに大柄の老人がいた。いや、老人といっていいのだろうか。初老のような若者のような雰囲気がある男性がそこにいた。隣にはもちろん瑠璃――九郎が言う姫さんが随員している。
九郎は軽く咳をしてから、含みのある笑みを浮かべた。
「初めまして、だな。わざわざ敬語を使うのもなんなので口が悪いが許してくれないか」
腰に手を当ててこの言動。
「ちょっ―――!」
「瑠璃、良い。大十字とか言ったな。儂もその方が落ち着く。先程ウィンフィールドからも紹介されたが覇道鋼造だ。君には何かと迷惑を掛けそうだがよろしく頼む」
九郎とそう変わらない背の大柄な男が礼をする。それだけで威厳があるというものだ。礼をさせてしまった自分が悪い気分になる。
「んで、そこでのたれ―――」
「テリオンだ。マスター・テリオン」
「急展開過ぎだろ」
先程まで再起不能にまで陥っていたテリオンが既に身を正して、九郎の隣に立っている。彼が隣に立っているというのは変な気分であったが九郎は話を続けることにする。
「『黒き聖域』が今夜来るらしい。あんたたちは出来うる限り自分の身を守ってくれ。必ずしも俺たちが傍にいるとは限らないからな」
「御意だ。我らも周囲を散策して怪しい者が存在しないか、調査せねばならんからな」
既にこの会場に『黒き聖域』が忍び込んでいる可能性も否定できない。もう既に彼らの任務は始まっているのだ。
九郎は辺りを見回してみる。アルとエセルドレーダの周辺で盛り上がっているのにも関わらず、無関心に突っ立っている者が数人。彼らは予測するに覇道財閥のボディガードだろう。
かなり厳重注意を施してはいるが、こういった堅い警備だからこそ穴が見つかりやすいことがある。それを補うために九郎は来ている。結局一日で事件を未然に防ぐ方法など思い浮かぶことはなかったのだ。こうなれば実力行使に限る。
「……『黒き聖域』なんかに連れ去られることになったら、貴方がたを恨みますからね。それでなくとも覇道財閥総出で、公開処刑に処することも貧相な脳に叩き込んでおきなさい」
相変わらずプライドの高いお嬢様だ、と九郎は溜息をつきながら笑う。鋼造も同感のようで軽く頬を緩ます。
「オーケイ、姫さん。なら俺の傍を離れるな。傍を離れて連れ去られました貴方のせいです死ねこの下衆野郎と、罵られたら大変だからな」
「元よりそのつもりですから。貴方がたに頼んだその瞬間から、その使命を与えているのです。連れ去られたら全て貴方の責任です」
本当、アルが言ったとおり何かと突っかかって死を招きやすいお嬢様だ、と心で悪態をつく。彼女の言葉が何人の心に死の概念を喰らわせているのか数えてみたくなった。もしかしたら自分たち以上に自己中心的ではないのか、とも。
「あと姫さんと呼ぶのはやめなさい。何様ですか貴方は」
「俺様」
「……おふざけはいい加減にしないと―――」
「九郎。余は先に行く。次こそは余の肉体美について講義をしてくれよう」
「マッチョな野郎には興味ねぇし」
「話を聞きなさいっ!!」
全くもって危機感のない場である。いや、危機感という概念すらも持ち合わせていないのだろうか。
ウィンフィールドは頭を抱え、鋼造は喉を鳴らしていた。
「腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ腹が立つ」
アルが顔を伏せながら念仏のように同じ言葉を繰り返していた。
あれからテリオンがエセルドレーダに声をかけ、慌てて彼女が彼の後を追いかけたため、口論は途中で強制終了されてしまった。
不完全燃焼のまま終わらされたアルにとれば最悪この上ない。もちろん相手側もそうであるだろうが。
激しく髪を掻き毟りたい衝動に駆られる。叫びたい衝動に駆られる。だが耐えた。耐え切ろうと努力している。
対する九郎は着慣れないタキシードにまだ違和感を感じていた。本来ならネクタイを緩めたいが、その度に瑠璃から痛い視線を向けられるので渋々このままである。
諦めると同時に思考を推理モードに移行する。
「なぁ、アル。俺が見るに覇道鋼造は『黒き聖域』とは関わりがないように思えるんだが。お前はどう感じた?」
顔を向けると、相当疲れた顔をしたアルがいた。だが彼女は九郎の思考が変わったことを察すると素早く自分もそちらに思考を移し、顎に手を当てる。
「そうだな。妾はあの小娘のせいでちらりとしか拝めなかったが、彼の者には悪意が感じられなかったな。もちろんそれこそ演技であることも考えられなくもないが」
「こうなりゃ、目的は覇道家制圧及び独占ってところか。……はぁ、もうこれって探偵の仕事じゃないよなぁ」
「探偵とはあらゆる事件において対処せねばならぬ。もしここが戦場となろうことならばそれに対して汝は立ち向かわなくてはならぬであろう」
ふっと笑うアルの態度に今度は九郎が溜息をついた。
「さて、犯行予告時間まで一時間ある。今回の『黒き聖域』がどのような輩か理解出来ぬが、今のうちに心の準備はしておいたほうがよいぞ」
「……心の準備、ねぇ」
アルから視線を逸らし、未だ挨拶回りをしている標的二人の姿を確認する。傍には、あのウィンフィールドがいるので接近戦は大丈夫であろう。勿論、二人を庇いながらというハンデが生じるが。
問題はやはり瑠璃であろう。鋼造は肝が据わっているため、突然の出来事には対処できよう。だがあのお嬢様は気高く、そして脆い。彼女が事態発生と同時にどういう行動を起こすかで運命は左右されるであろう。
焦らなければいいけどな、と視線を向けながら思う。すると視線を感じたのか瑠璃がこちらに顔を向け―――子供っぽく舌を出した。
「そういえば汝。ここの従者から今後のスケジュールを聞いておいたぞ」
ドレスのポケットから小さいノートを取り出す。わざわざ洋服に合わせたのか、表面が灰色である。すっかり九郎もパーティの陽気で忘れていたが彼女は助手なのだ。
「どうやら今から三十分後にあの壇上で、覇道鋼造と小娘の誕生歓迎スピーチがあるそうだ。予定ではそれを三十分するらしいが、時間に余裕が出来た場合来賓から一言。そして小娘の誕生日になる午前零時に乾杯の杯を交わすらしい。 なんともまぁ手が込んでいるようであっさりしたパーティだ。妾の誕生日にはケーキ一つでいいぞ、汝」
はっきり嫌味とわかった。彼らにはケーキ一つ十分に買えるほどの資金は持ち合わせていないのだ。
押し黙っていると、アルが軽く覗き込んできて肩を落とした。
「ともかくこうして呆然と突っ立っていても仕方なかろう。マスター・テリオンのように周辺を探るか?」
本当は彼奴らと同じことはしたくないのだが、と付け加える。
「周辺を探る必要もないだろ。もう残る方法がアレしかないんだったら無駄に動いて体力すり減らすこともない」
「それもそうだが。はぁ、やはり一日足らずで『黒き聖域』の対策方法を考えよというのは些か問題がありすぎるな。この依頼が終わったら依頼規定に『依頼は調査開始から一週間前に』とでも付け加えることを提案する」
ふと、アルがもぞもぞと所在無く動き出した。
新たな踊りでも開発したかと考えたが、そんな奇妙なことを行う彼女ではない。
太股を擦り合わせ、何かを我慢しているような。
「……早く行って来い、アル」
「……すまぬ」
トイレだった。やはり女性であるアルには異性に声に出して言えるようなことではないのだろう。
しかも、自分が好意を抱いている相手であれば尚更だ。
顔を少し赤らめてスカートを持ち上げ、走りやすくしてから駆け出した。彼女ならばもう少し早く移動できそうだが、それを"使う"と更に危なくなるので敢えて使わないでいるのだろう。
男性なら多少我慢できるが、女性の場合そうはいかない。
そんな女の子事情を少なからず理解している九郎は、アルの異常に気づき行かせた。少し遅かったかもしれないが。
しかし、これで暇潰しがなくなった。アルと会話することが唯一の至福のときだ。
義務感や焦燥感を左程味わうことなく気軽に話し合える仲。いつの間にか口論や苛めになっていたりする仲。
そんな会話を二人とも楽しんでいた。気遣う必要のない相手というのはこれほど嬉しいものはない。
だが今はその相手がいない。溜息。
「暇だぁ」
そんなに暇なら仕事しろ、と彼の事情を知っている者なら誰もが言いそうだがその相手は周りにいない。
皆、見知った相手とまた今夜初めて会う相手と談笑している。腹の中では何を考えているのか。
果たして彼らの笑いは本当の笑顔か、営業ではないのか、機嫌取りではないのか。
知らず知らずのうちに目を鋭くして彼らを眺めていた。
「……やっぱし、こんな依頼受けなきゃよかったな」
『黒き聖域』関連で、しかも家賃代わりの依頼となれば否応がなしに受けねば仕方ない。
しかも承諾したのは何を隠そう、大十字九郎本人だ。後の祭り。後悔先に立たず。
頭を抱えつつ、近くをこのパーティ会場の店員が水を盆に乗せて通りかかる。呼び止めて一つもらう。
ふと呼吸するようにとってしまったが、この水は煮沸消毒しているのだろうか。
少し疑いの目を向けつつ、軽く舌で水を舐めてみる―――よし、大丈夫だ。
くっ、と飲み干して息を吐く。
「ミネラルウォーター」
市販の。多分この会場にいるどこぞの社長の製品だろう。
ここでさり気無くPRする。見込んだ商売魂だ。
さて、アルを待ってもいいが何かとこういう会場でのトイレというのは行列が出来るものである。
金持ちばかり揃っているのでそれほど行列は長くないにしろ、あることにはある。
それでは、代わりの暇潰しを探すしかない。
だが、そうそう暇潰しなど思いつかないわけで。
暇潰しなど向こうからやってくるもので。
「――――?」
自分の服に違和感があって、九郎は首を傾げた。
何かに引っかかったような、引っ張られているような。
かくして、判決は後者だった。
トイレが空いていてアルが早く帰ってきたかと思い、振り返ると全く違う少女がそこにいた。
身長はアルと同じくらいだろうか。見た目では十代前半に思える。
服装は赤いドレスを身に纏っている。アルやエセルドレーダのように肌を左程露出させておらず、一般的なドレスといえよう。
顔つきはふっくらしており、幼顔といえよう。その辺りは瑠璃と似通ったところがある。
だが、雰囲気が九郎が会ってきた女性の中では違っていた。
ナイアのように闇でもない。エセルドレーダのように黒でもない。
瑠璃のように高貴でもない。アルのように特質でもない。
ただの無垢。いや『無』。
彼女の表情からはそれが感じられた。
橙色の髪の毛をややカールでまとめている。
しかし、雰囲気の次に突飛するといえばその赤い瞳か。
その瞳に自分が映る。まるで血の海に沈んだ自分のように。
「……なんだ?」
だが九郎にはそんな感覚は生まれなかった。そこにいるのがどこぞの子供であるということ。
子供が自分の服を掴み、また自分の顔を見ているということだ。
「どうしたんだ、お前。親とはぐれたか」
ぶっきらぼうに尋ねる九郎。
だが少女は全く答えることなく、九郎を見つめていた。
じっと見つめられていることは探偵ゆえ――依頼は微妙だが――慣れていたが、この空気は少し違っていた。
品定めされているような視線。痛い視線だ。
だからこそ、九郎は油断できなかった。何を仕掛けてくるかわからないこの空気に。
少女は、視線をそのままにして、ゆっくり九郎の服から手を離した。
「――――――――」
口が何かを告げる。しかしその声は会場の雑踏に紛れるほど小さく、そして一呼吸だった。
感情を知らぬようなその態度。まるで機械であるかのようなその振る舞い。
不思議に思い、九郎が再度声をかけようとした瞬間。
場が、暗転した。
「なっ!」
突然の暗闇に九郎は驚きの声を上げた。
滑らかに流れていたクラシックの音楽も、談笑していた声も、明々と照らされていたシャンデリアも全て止まった。
予定の時間が早まったのかと一時は思った。しかし、こういった上級階級は何よりも時間を重視する。
そう簡単にスケジュールを変更するとは思えない。
従士が主の依頼なくしては、変更など出来るはずがないのだ。
その主は先程から終始この会場にいる。つまりこの考えは自然に消える。
では、何か。機械の故障か。電気の使いすぎによりブレーカーでも落ちたか。
否、そう簡単に事情を解決できるほどのものではないだろう。
ウィンフィールドもそれに気づいているのか、鋼造と瑠璃を庇うようにしている。
これは、来訪を告げる舞台設定だ。幕はまだ下がっている。いやもう既に上がろうとしているのか。
そう、油断を誘った時間作戦。『黒き聖域』のお出ましだ。
瞬間、天井から何かが降りてきた。
天井の壁を突き破り、思わぬ速度で落ち、怒涛の音を地上27階の会場に鳴り響かせた。
その何かは何事もなかったように、この会場の地に降り立つ。
そこは数十分後に覇道の祖父・孫娘がスピーチをあげる壇上であった。まるで舞台主役のように降り立った何かは突然笑った。
「ぐふふふふふふ。は〜い、愛しの瑠璃ちゃ〜ん。いい子にしていたかなぁ!?」
馴れ馴れしい言葉を吐いて、嗤う――いや、嗤っているのか――のは奇妙な形をしたモノだった。
まるまると太った体躯。長く伸びる腕・足。普通の人間とは思えない体格。
だがそんなことを気にさせず、注目させるのはコレの顔だろう。
一見、蛙のお面を思わせる顔。人間ではあらざるその顔。その面にようなもので隠された瞳が恐怖を誘った。
面のようなものから流れ出た涎が壇上の床に落ちる。それで更に恐怖が場を包む。
言葉をかけられた瑠璃は「ひっ」と彼女に似合わない言葉が出る。
まさか『黒き聖域』がこんな変態野郎とは、心の中で考えていたとしても実際見ると体が震えるのだろう。
「はいはぁい! 邪魔するヤツはぶっ殺すから逃げるなら今のうちよー!」
パンパンと手を打ってそれを知らせる。
少しの間があったが「あんたら、ぶっ殺されたいの?」という蛙もどきの言葉に我を戻し、皆一斉に逃げ出す。
「チッ、こいつ時間無視して来やがった。逸る気持ちを抑えきれず、ってヤツか?」
『黒き聖域』には変わった輩がたくさんいると聞いたが、運悪くそれに当たったらしい。しかも極上の。
逃げ惑う会場の客の体にぶつかりながら、九郎は蛙もどきを睨みつける。
ふと、隣にいた少女を思い出し、目を向けると既に姿形がなかった。
逃げたのか、それとも会場の客に雪崩れ込まれてしまったのか。気にはなったが、今はそれどころではない。
視線を向けると、既に会場には鋼造・瑠璃・ウィンフィールド、そして彼らの前を守る覇道家のボディガードしか残っていなかった。
彼らを一瞥すると蛙もどきはうふふ、とまるで女性のように笑った。
それがナイアのようで九郎の気に障る。だが彼女の違って男の声で笑っているので気持ち悪いが。
「『黒き聖域』が一人、ティベリウス。以後お見知りおきを。ね、るぅりぃちゃぁん?」
背筋に悪寒。誰もそんな口調で言われれば、言われずともその名を覚えてしまいそうだ。
蛙もどき――ティベリウスはその体格をゆっくり動かして、壇上から降りる。少し首を回転させて瑠璃がいる方向を確認すると、にやぁと笑った気がした。
「イタァ〜……」
言葉が発せられると同時に、ティベリウスは駆け出した。その体格からは信じられない速度。
すぐに前線であるボディガードの壁にぶつかる。
「邪魔ッ!!」
吼えると同時に彼――といっていいのか――は腕を真横に振る。
一見、かすったようにしか思えないその攻撃は確実に彼らを蝕んでいた。
そう、"虫食"んでいた。
誰かの叫びが聞こえた。九郎が瑠璃の方向に走っている際、目を向けるとそこには異様な光景があった。
虫が、彼らを食っている。
服だけではなく、髪も、皮膚も、毛も、目玉も、爪も、内臓も、肺も、上も、下も、内部も、全て、丸ごと。
飲み込むのではない、食べている。音を立てて、軽い音を立てながら、骨すらも噛み砕きながら。
何も残さない。この世に一欠けらも残さないように、虫は彼らを虫食んでいく。
蠍のような形をしたその虫は、集団でボディガード一人を食べきり、また違う獲物を狙っていく。
叫びながら彼らも銃で応戦するも、蟻のように小さい虫を一匹殺したぐらいでは大して変化はない。
もし一集団を滅ぼしても、集団は回りに幾数といた。一個体で考えると何千と。
対応できない。骨が噛み砕かれる音とともに、周りにいた全員は恐怖に慄いた。
結果は既に、見えていた。
一分もしない内に、ボディガードは全滅した。いや、全滅したのかすらわからないくらい跡形もなくなっていた。
九郎が舌打ちをしているときには、既にティベリウスとウィンフィールドが対峙していた。
「邪魔よ、あんた。大人しく瑠璃ちゃんを渡しなさい」
「残念ながらここから先に譲るわけには行きません」
言い終わる前に、ウィンフィールドから仕掛けた。
右フック。思わぬ速度にティベリウスは退く。
その間にもウィンフィールドは仕掛けてくる。フットワークを軽快に、構えは腕を胸に。
「へぇ〜。ただの人間にも骨があるヤツはいるのねぇ。まぁ骨がないと生物ではないけどぉ?」
「お喋りはそこまでです!」
左上段蹴り。
受け流してティベリウスも攻撃に入る。
先程の攻撃で、あの腕には何かあることを理解したウィンフィールドは出来る限り攻撃の直線上にいないように、しゃがんでその腕を捌く。
攻撃を読まれて腹が立ったのか、乱れるようにして腕を振りまくる。
だが、それをも柔軟な体で、尚且つ腕には触れないようにして避け続ける。
少し隙が出来たのを見つけた。それを見逃すわけにはいかず、ウィンフィールドは腕を出す。
右ストレート。
隙をつかれたのを、驚いて腕で攻撃を受けようとするがその攻撃は素早く受け損なう。
「ぬぐふぅ!」
拳の重さに圧倒されて、地面を削り後ろに下がってしまう。
地面といっても、床は絨毯。赤い絨毯が捲られながら破れていく。
ティベリウスは息を吐きながら体勢を立て直す。彼にとればウィンフィールドの攻撃などそれほどでもなかったのだろうか。
いや、そうでもないらしい。彼の口からは苦しみの声が喉で鳴っていた。
かちんと、きた。
「あんた、なめてんじゃないわよぉおおおおおおおおおおおお!」
ギリッと歯軋りのような音を鳴らして、ティベリウスは地面を蹴る。
普通の人間なら油断をして、彼の攻撃を見過ごしてしまいそうだが、ウィンフィールドは違った。
フットワークを軽快に、相手のどんな攻撃に対しても対応できる体勢をとっていた。
繰り出す豪腕。
体を反らして、回避。それの反動で背後へ手をついて回転する。
息を一つ吐き出して、ウィンフィールドは構えなおす。
続いてやってくる攻撃を見切り、相手の隙を窺う。隙が出来ると着実に攻撃を当てていく。
右左の手足を上手く使い、相手が受け止められない角度で攻撃。死角となるところで反撃。
ダメージを徐々に加えられていくティベリウスは苛立ちながらも攻撃を重ね続けた。
「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!」
咆哮し、腕を振るうもその数々はまるで読まれているかのように避けられ続ける。
いや、読まれているのだろう。それほど動きが素早い。
だがティベリウスはそれでも攻撃をやめようとはしない。まるで狂ったように攻撃を繰り返す。
ウィンフィールドはその動きに違和感を覚えながらも、避け続けた。避け続けなければ自分は虫食まれる。
あの腕は危険すぎる。触れると同時に何処からか、何の方法でかわからないが人喰い虫が出現する。
その攻撃力は計り知れない。一瞬のうちに自分の体が骨すらもなくなる体になる。
「これが、魔術、というものですか」
初めて目の当たりにしたその魔術は、やはりウィンフィールドの目を見張った。
日常ではお目にかかれない奇術に感嘆の息が漏れた。
「しかし!」
ウィンフィールドは目を見開き、一歩地面を蹴る。
滑り込むようにして入り込んできた彼にティベリウスは目で追えなかった。まるで空気の流れのようなその動きに何の反撃もすることが出来なかった。
一発で決めるつもりはなかった。着実にダメージを狙っていく連撃を仕掛ける。
右左の腕が上下左右へと否応なしに動く。その動きは目視できないほどに、風を切る音が聞こえてくる。
それだというのに、ウィンフィールドには呼吸の乱れがない。まるで準備運動の如く呼吸を合わせながら攻撃をしている。
圧勝だ。
しかし、その状況に違和感を覚えていたのはウィンフィールドだけではなかった。
大十字九郎もその呆気なさ過ぎる展開に違和感を覚えていた。
確かにウィンフィールドの強さは尋常ではない。それは九郎自身がよく知っている。今目の当たりにしてそれを再認識したところだ。でも、これは明らかにおかしすぎる。これは反吐が出るくらいの三流芝居にも思える。
ならば、その違和感は何だろうか。
虫食む力を持つティベリウス。その攻撃は触れたものに対して虫を発生させる能力。
魔術の内では具現化の類だろう。かなり要領が必要な魔術であるはずなのに彼はいとも簡単に発生させ、虫食み続けている。
かする程度でも、その具現化は自動的に発生するのだ。悪趣味であることは確か。
「―――!」
そこで気がついた。違和感の理由。
そう、あまりにもティベリウスが"攻撃を受けすぎている"。
相手の戦闘経験が薄いとあれば納得できるが、そんな相手が『黒き聖域』に存在するか。
ないとは言えないが、あるとも言えない。
ならば答えは一つだ。
『ティベリウスは意図的に攻撃を受けている』
「ウィンフィールド! 後ろに下がれ、攻撃を加えるな!」
九郎はタキシードの内側から二挺の拳銃を取り出した。
紅と黒。白と青。お互い存在を引き出す色が装飾された銃を九郎は持ち出し構えた。
即座に発砲。銃弾は片方は真っ直ぐに、片方は異様な動きを見せながらティベリウスに直撃した。
よろけるティベリウスと九郎の声に気づくと、ウィンフィールドは地面を蹴って後ろに下がった。
まだその時点では気づいていなかったが、後ろに退き、構造と瑠璃が確認できる位置に来たときその異変に気づいた。
「ウィンフィールド!」
瑠璃も気づいたのか、悲鳴を上げて彼の名を呼んだ。
自分の右左の手足が虫食まれつつあるのだ。そう、魔術開放。魔術は既に発生していたのだ。
「これは―――成程、彼の体にも魔術の範囲は広がっているということですか」
触れるものには報復が。ティベリウスの虫食む能力は腕だけではないということだ。
触れるものに虫食む力が発生する。ウィンフィールドは幾度も彼の体に攻撃を加え続けた。それがこの結果なのだろう。
「何を冷静に答えているのですか! 貴方は自分の体が―――」
「瑠璃様、お気になさらずに。この程度の虫ケラ、そう簡単に私の体を虫食めません」
その言葉どおり、発生した虫はウィンフィールドにやっとのことでしがみついているとしか思えなかった。
何が起きているか理解できていない瑠璃を他所に、ウィンフィールドは溜息を吐く。
これぐらいのこと理解できなかった自分が虚しい。勿論、もう少し時間があればわかっていただろうが。
そこに滑り込むようにして九郎がウィンフィールドの前に出る。
「大丈夫か?」
顔を彼に向けず、九郎は視線は銃弾を受けて衝撃がまだ柔らないでいないティベリウスを直視していた。
「えぇ。時間をもう少し頂ければこの虫を"氣"で跳ね返すことが出来ますが。どうやら無理しないほうがいいようですね」
「無理に跳ね返すとその反作用・副作用が怖いからな。魔術というのは医薬品に似ているって―――あ、いやなんでもない。忘れてくれ」
手を振ろうとしたが、その手には銃を持っているため振れなかった。
「後でアルかエセルドレーダが来るはずだ。あいつらなら解法魔術を知っている。そっちのほうが確実性が高い。現代医療や氣なんて気休めにしか多分ならないからな」
言い終わると、ティベリウスが体勢を立て直して九郎のほうへと睨みつけていた。
お面のようなものを被っているため、本当に睨みつけているのかわからないが威圧感は伝わってきた。
だがそれを異ともしないのか、九郎は冷めている目で彼を見つめていた。それが更にティベリウスの威圧感を増させる。
「あんた何なのよ! もう少しでアイツをぶっ殺せるところだったのにぃ!!」
挙句の果てには地団駄を踏んでいる。駄々をこねている子供のようだ。
しかしあくまで冷静に九郎は銃を構えた。腕を交差させ、銃身を横に向ける。
紅と黒、白と青の銃を狙いを定めて構える。
その銃を見て、ティベリウスは目を疑った。美しく光り輝くその銃身。向けられるその銃口に精気を抜かれてしまった。
「……『クトゥグア』『イタクァ』」
その声が聞こえたかどうかは定かではない。聞こえたとしても九郎にとれば左程問題ないことだ。
紅と黒の銃身、自動拳銃『クトゥグア』。
白と青の銃身、回転式拳銃『イタクァ』。
その名前を挙げられても九郎は気にしない。元より彼らが知っていることを前提にして取り出した品物だからだ。
「俺が何か」
九郎はふっと嗤うと、トリガーに指を当てて片目を瞑った。
告げるように、柔らかな御伽噺のように、静かに、厳しく、言い放った。
「大十字九郎。探偵だ」
一方、その頃のアル・アジフ。
「……暗いよぅ、暗いよぅ。狭いところと暗いところは苦手なのじゃ」
トイレの個室で、肩を震わせていた。
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