イマイチをゆけ!



 解答解説.


結局、貴方は何をしたかったのですか?




 駅前。
 今日の授業を全て終えた私は、ホームルームを無断で抜け出して駅前までやってきた。
 ホームルーム直前、突然の出来事にクラスの方々が驚きの目をしておられましたが、早くこの胸のもやもやを払いたくていてもたってもいられなかったのです。
 そんな中でも動じていなかったのが、ひとやくん、希さんのお二方。
「どうせワンが何か言ったんだろ。止めやしないよ。それにうちの担任は淡白だからね、遙がいなくてもどうってことないだろ」
 というのが希さんの言葉。
 ひとやくんにも挨拶をして、教室を出て行こうとする。
 そこで「遙」と呼び止められる。振り返るとひとやくんが私の方へ視線を向けていた。
「知ることはいいことだが、知りすぎることは自分も相手も追い詰めることになる。引き際も大切だと肝に銘じておけ」
 何を言わんとするか、少し悩みましたが、自分の性格を考えて納得した。
 自分はこう見えても衝動的で、何事にも踏み出す傾向がある。しかもその衝動は止めどころを知らない。直球型といえばいいでしょうか。
 それにより危険が伴って、自分に被害を受ける。それは怪我だったり罵倒だったり様々。今まで生きているのだからそれくらいは理解できていた。
 でも誰も助けてはくれなかった。助けてくれても同情や哀れみの視線、態度、言葉だけ。誰も本心で助けてはくれなかった。自分を正当化して、正義感に浸っているだけの仮面を被ったニンゲンという生き物。個性を見出せない集団意識だけを持っている多数派のヒト。世界なんてたったそれだけと思っていたのだ。
 だが、彼は――今樫一八は――全く違う感性で私を包み込んでくれた。
 だからこの言葉も私を心から心配してくれている証拠。自意識過剰かもしれないけど、そう思う。
「『逃げることは絶対悪いことではない。目の前を判断することこそ、己を見出せる』」
 そう言うと、ひとやくんは軽く笑みを浮かべる。直視しないと窺えないほどの変化。
「探究心は褒め称える。真相がわかったら伝えに来い」
「はいっ!」
 笑みを返して、私は教室を出て行った。


 ―――しかし、ワン。
 ―――なんだ。
 ―――真実を知ったら、あの子、すんげぇショック受けるんじゃないか? こんなもんだった、って。
 ―――それでもいいだろ?

 ―――嘘で言い包められるより全然マシだ。


 券売機で入場券を買って、駅構内に入る。
 平日とあって人も疎らかと思っていたのですが、どうやら下校時刻も重なってそれほど少ないわけではなかった。
 ゆっくりと歩きながら駅を見回してみる。
 ホーム。異常は見当たらない。
 線路、レール。やはり異常は見当たらない。
 視線をそこから泳がせていく。一片の塵も見逃さない勢いで。
 傍から見ればおかしかったのでしょう、後ろや横から異様な視線を受けますが、全く意に介することなく視線を辺りにぶつけていく。
 そして、
「あ―――」
 それは意識していないと見逃すところ。
 視線の先は反対のホームの下にあった。
 穴。
 四角い穴が開いてあったのだ。
 穴の周辺を黄色いペンキかなにかで覆われている。それは成人男性が体を縮ませれば二人は入るのではないかと思われる大きさだった。
 そこで思い出した。駅にはそういった対策があることに。
 不幸にもホームから落下し、あと少しで列車が来るという事態のために考え出された一つの策。それがこの穴。
 ホームと線路のある地面との高さがある一定の基準を超えれば作られる穴。そこでようやく理解できました。
「……あれを使ったのですね」
 多分、あの人はそれをわかっていて落下したのでしょう。
 当時立っていた場所に移動し、下を覗き込むとその穴があった。確信。
 だけど、それにしても、危険な賭けだったのではないでしょうか。
「ちょっと、危ないですよ」
 後ろで声がかかったので振り返ると、そこにはその日ホームに立っていた駅員でした。彼は呆れ顔で帽子を被りなおしながら私の元へやってくる。
「あ、す、すいません。あの、先日そこで女の子が落ちてしまったという事件があったというのを聞いて、それで」
「ああ、あの方ですね。なんとも人騒がせ―――いえ、こういっては失礼ですね。彼女には彼女なりの事情があったようですし」
 駅員は悟ったように、これまた溜息を吐いた。
 実はそこに私もいたのですが、どうやら駅員の記憶にはないようです。隠している私も私なのですが。
 あまりにも憂いを帯びた顔を浮かべていたので、思わず訊いてしまった。
「といいますと?」
「……いえ、なんでもありません。プライバシーの問題もありますし」
「では、どうやって彼女は“隠れ通せた”のですか?」
 これはひとやくんが呟いた一言。意味深な言葉だったので脳が記憶していた。うっかりしていたらこの質問も訊いていなかったでしょう。
「面白い方ですね、貴女は。まあその程度なら。彼女は先程ご覧になっていた――見ていましたよね?――その穴に身を隠していたんです。その時は。そんなことがあれば誰でも騒ぎ出して、電車も止まるでしょう? その騒ぎに乗じて電車とホームの小さな隙間・電車とレールの隙間を利用して逃げ出したんだそうです。それだけを聞けば人騒がせな方に思えますけどね……」
 そこまで言うと、駅員は黙り込んでまた帽子を被りなおし、「では、これで」と仕事に戻っていく。
 証明終了。事件解決。あっという間でした。
 本当、ひとやくんが仰ったようによく観察していれば解けた事件。何故か取り残された気分になってくる。
 けどちょっと清々しくなった気分もありました。解けたという充実感や爽快感。自分でやらなければ得られないそういった気分に少しの間浸る。
「あ、ひとやくんにお知らせしないと」
 鞄の中から、まだ買って間もない携帯電話を取り出して、登録している番号へ電話する。
 少し間があってから聞きなれた音が耳に伝わってきた。
 そして。


 ―――あの転落したという少女のことだが。
 ―――なんだ、ワンも調べていたんじゃないか。
 ―――少し思うことがあったからな。で、だ。

 ―――そいつは本当は死ぬつもりだったらしい。

 ―――は?
 ―――理由はよくわからんが、落ちてから恐怖がきたんだろう。それであそこに駆け込んだらしい。
 ―――え、ちょっと待て。つまり、どういうことだ?
 ―――計画を立ててやったことではないということだな。
 ―――ぐう、ぜん。
 ―――まあ、オレには関係のないことだ。今頃どうしていようが、気にもかけてやらない。
 ―――はあ、己というヤツは……ん、ケータイか?
 ―――解けたようだな。
 ―――どうするんだ? このこと言うのか?

 ―――……嘘も時には必要だな。


...Good bye yesterday and tomorrow...








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