イマイチをゆけ!



 6.

 行動開始。
 その前にこの殺人という行為について考えてみようと思う。
 人を殺すということで殺人。これは誰でも知っている、文章から成り立った熟語である。
 ではその殺人がどうしていけないのだろうか。
 人を殺すことがいけないから。人は殺してはいけないから。殺してはいけないから。
 では人間は何も殺してはいないのだろうか。動物、人間も含まれている動物をその手で殺しているのではないか。そこで人は「人間は別格」とのたまわる。
 そう、いつの間にやら人間は動物達の頂点へと上り詰めているのだ。
 食物連鎖など放棄して、人間は殺しまくっている。
 殺して、殺して、殺して、そして死ぬ。
 人間は人間によって殺されることがない限り、途中で死ぬことはない。
 話を少しベクトルをずらして考えることにしよう。
 もし、親兄弟・愛する人・信頼している人が殺されたと聞けばどうするだろうか。
 誰でも少なからず、その殺人犯を殺したいという欲求が出てくるに違いない。出てこない人間は人間ではない。人間ではない、出来損ないの人間だ。
 ではその――殺人犯を殺す――行動を実行してみるとしよう。
 そうするとどうなるか。「貴方は殺人犯なので逮捕します」と警察から言われるのだ。
 恨みを晴らしただけなのに「人間は人間を殺してはいけない」という理由で殺人犯として捕まる。それがどういった理由であろうとも。
 ここまで言うと殺人を肯定しているように聞こえるが一片たりともそういった考えの持ち主ではない。何かを間違えているという警告なのだ。
 殺人という言葉を、殺人という意味を、殺人という行動を。
 言葉が意味を表し、意味の上で行動に走る。その行動を勘違いしてはいないのだろうか。
 その殺人の裏に何が存在しているのかを傍観者はご存知なのだろうか。
 ―――――結局のところ、殺人はいけないのだけれど。
「くだらない」
 遙と生徒会室へ向かう最中、少しの間会話が途切れたので思考に耽ってみたが、全く意味を成さなかった。
 どっちつかずの中途半端な考えで終わっているところが、結構自分の性格が出ていると思う。
 そしてこんなことを考えている時点で、自分は異常者なのだろう。殺人のことなんて考えるだけ無駄なのだ。
「遙」
「はい」
「人は何故人間を殺すのか」
 突然の質問にやはり遙は目を見開かせたが、即座に真剣味を帯びて質問について考える。
 一分も経たないうちに顔を上げてオレの目をじっと見た。
「…………自分という存在が生きている証拠を欲しいからではないでしょうか」
「つまり、どういうことだ」
「排他世界であるこの現代。自分が生きているか生きていないかわからない、この怠惰人生。そんな日常からどうしても自分の生きている証が欲しい。誰かを殺して自分が残っている。それだけで自分は生きているということが立証される。 ……そういうことだと、私は思います」
 サバイバルゲームの原理。いや、この場合はゲームなのではなく本物のサバイバル、むしろバトルロイヤルの原理だろう。
 生き残った者が勝利。生き残った者が生を勝ち取れる。
 そんなことを述べながら遙は少し悲しそうな顔をした。
 やはり彼女も『殺人はいけない』といった考えの持ち主なのだろう。否定するつもりは全くない。殺人は―――今はやってはいけない行為に指定されているのだから。
 遙の頭を軽く撫で、謝りながら窓の外を眺める。
 外にはあの日と同じように緑が、綺麗な青緑が窓一杯に生い茂っていた。
 いや変わらないのは当たり前か。あれから四日しか経っていないのだから。
 溜息を吐くと同時に足を止める。そこはまさしく生徒会室の目の前。目的地到着。
「なら、この殺人はどういった意味で成り立っているんだろうな」
 なぁ遙、と顔を向けると遙は顔を紅潮させて固まっていた。
 呆れつつも、軽く彼女の頭を叩いてから生徒会室に入っていく。
 見回していくと一見二日前とは何も変わっていないように思える。
 だが、そこには確かに何かが存在していた。目には視えない何か。
 並の人間には認識できない何かを直感的にこのオレは理解できていた。
 これは自信ではなく確信、自慢ではなく怠慢なのだ。
 オレは幼少時代からそういった類に鋭い傾向がある。人の死に関するものが目の前にあると頭の奥でオレではない何者かが囁いてくるのだ。

 『死臭だ』
 『血の匂いだ』
 『霊がいる』
 『隠してもわかるものはわかる』

 それは老若男女入り乱れての井戸端会議。物騒な言葉が行きかう闇の会議のようだ。
 痛い頭でどうにか整頓しようとする。
 オレの前で遙が心配そうな顔をしているのがわかる。目を瞑っていても想像できる。
「遙。今のうちに生徒会室の配列を覚えろ。さほど重要ではないが、完全とはいえない」
 そう声をかけると、遙は名残惜しさを噛み締めながら、部屋の中心に立ち、辺りを見回し始める。
 その頃には頭の痛みも治まりつつあるので、溜息を一つ吐いてから生徒会室を出る。
 オレのような障害物があれば、記憶においての配置がズレてしまう。それに図式を彼女の脳に完全に叩き込むには、それなりの環境が必要なのだ。
 誰にも邪魔されず、静かな空気。細かいところを省けばそういったものだ。
 生徒会室を出て、すぐの壁にもたれかかる。窓を開けて後頭部から頭を出す。雲一つない青空。何もない空。
 遙の記憶にはあと数分かかる、かと思ったところで遙が生徒会室から出てきた。
「……終わったのか」
「はい。意外と単調な部屋でしたよ。典型的な社長室タイプなので、そこから徐々に修正を加えていけばなんとかなります」
 生徒会室とは考えずに、記憶している部屋のタイプからそれに似ているものを選んでから、微妙な配置の違いを計算して図式を展開。
 それが彼方遙の部屋の記憶術。誰でも簡単に出来そうだが、まず部屋のタイプを覚えないといけないのが難しいところだ。しかも彼女の頭の中には100を超えるパターンがあるのだから、それを上回るには相当な記憶力と記憶容量が必要となる。
「それにしてもこの記憶をどう使うのですか? 現場検証なら、この場でしたほうが効率がいいと思うのですが」
「それはここにいる時間があればの話だ。いずれここには多数の人間がやってくる。その『現場検証』とやらを掲げてな。生徒会側も止めはしないだろう。止めると犯罪を認めてしまう結果になるやもしれないからな」
「えっと、それでは私を呼んだわけは?」
「紙で地図を描くよりも、お前の記憶力の方を信頼したからだ。微かな見落としもない映像の記憶の方が文よりも正確なのは明らかだろう」
 はぁ、と納得したようなしていないような返事。
 首を傾げて、遙は不思議そうに訊いた。
「ひとやくんは一体何がしたいのですか?」
 それは彼女が理解できていない証拠。確かにこれだけでは一体何がしたいのかわからない。実際、自分でも何をやっているのか頭の中で理解できていないのだ。
 このような手段に及ぼうと考えたのもあの井戸端会議のせいだ。過半数の多数決により決定した結果なのだ。
 だからそいつらの代わりにオレが答える。まったくもって仕方なしに。
「オレの微かな記憶と遙の正確な記憶を以ってして、当時の現場を再現する。――――再現調査ってやつだ」
 それが意味を成すのかはわからないけれど、やっておくことはやっておかねば。
「とりあえず歩く。人目に触れるのは避けたい」
 そう言うと視線を周りに泳がせながら注意深く歩いていく。
 慌てて遙がついてくる気配を背中に感じつつも、更に歩を進めていく。
 別に彼女を放っているわけではない。ただ、あの現場に微かな違和感があることに気がついたのだ。
 それは本当に微かな違和感。
 階段を下り、やっと生徒の姿が見え始めたところで一つ息を吐く。そういえば今は昼休みだった。色々思考に耽っていたせいで時間を忘れていた。
 渡り廊下を通って教室棟へ。昼休みもあとわずかとなり、各々の教室へ戻っていく生徒の割合が多かった。中には廊下でダベっている者もいるにはいたが。
「一旦、教室に戻りますか?」
 遙が訊いてくる。
「そうだな。今から屋上に行くにしても距離があるすぎる。……ところで次の授業は何だ?」
「日本史ですね。佐々木先生ですから、ひとやくんはお昼寝の時間のはずです」
 佐々木のご老体か。あの人はなかなか面白い授業をするのだが、語りがのんびりしすぎる。それに生徒に質問も詰問もしないので授業が単調気味になってしまう。なんとも惜しい教師だ。来年定年らしいがそれもまた惜しいことだ。
 だからこそ、こういったつまらない部類に入る授業は寝るに限る。あとで遙や喜美野にでもノートと同時に講義もしてもらうことにする。
 ああ、事件のことについてまとめるにもいい時間か。先程三人でやったからこれ以上必要ないとは思うが。
「そうか。なら寝ることにする。ノートは任せた」
「任されました」
 微笑んでから、思い出したように顔を引き締める。
「では、放課後から生徒会役員とそれに関係する人物にあたってみます。ひとやくんのご迷惑にならないよう、粉骨砕身の思いで―――」
「やめろ。お前なら本当に骨と砕けそうだ」
「で、では、どうすれば!」
「ゆるりとやれ」
「くるり?」
「回ってどうする」
「ご、ごめんなさい!」
 謝られても。
 オレは軽く肩を落とす。
「いつもの振る舞いで十分だ。友人に話しかけるように、いつもそうしているように。それが相手に不信感を与えないようにする一つの方法だ」
 プラス、彼方遙の清純さを知っているならば。尊敬に値する人間であれば。
「自分に負けるな。極意」
「『己を信じよ、それが己の糧となり勇気となる』」
 遙は即座に答えた。今まで慌てていた姿が嘘であるかのような立ち振る舞い。
 多分、そこでオレは笑ったと思う。多分だが。


 授業を難なくこなし、担任がホームルーム終了の合図を告げる。
 うちの担任は結構淡白で、面倒なことはしない方針を打ち立てている。だからホームルームもあっさりと終わる。
 まあ、部活の顧問やら最近結婚した美人の妻との問題もあるのだろうが。そんなことは知ったことではない。その妻が元レディースだということも知ったことではない。
 ともかく本日の全過程を終了した時点で、遙はオレに「それではいってきます」と言付けてから鞄を持たずに廊下に出た。その後ろを喜美野がついていく。彼女は軽く目を合わせ、疲れた笑顔を浮かべてから手を振って遙の後を追っていった。
 どうやら護衛を頼んだらしい。いい心がけだ。喜美野には迷惑をかけるが。
 別段、こちらも用事がなかったので遙を待つことにした。いや、待つことが普通なのか。
 鞄から朝買ってきた雑誌を取り出して読む。軽く斜め読みしただけだったので今回はじっくり読むことにしよう。
 そう決心した瞬間。
「なぎー、爆誕ッス!」
 生まれたか。
 橋凪渚、再来。
 そういえばこいつにも頼んでいたな。仕事が早いのは橋凪の特徴だ。それゆえハズレも多いわけだが。
「一通り回ったのか」
「うぃッス。昼休み中、校内を駆け巡ったッスよ」
 えへんというように、その薄い胸を張る。
 だが即座に体の力を抜く。脱力。
「しかしイマイチ先輩のご期待に添えるような情報は入手できなかったッスよ。学校側が防衛線敷いているようで御酉先輩の関係者に話を訊けないでやんすよ」
 本当にがっかりしたように肩を落とす。
 なんとなく同情したくなるが、つけあがるのでやらない。
「そうか」
 とだけ答えておく。
「あ、でも最近妙なことが起きたらしいッスよ」
「妙だと」
「うぃッス。教室棟の裏庭に飼育小屋があるッスが、そこにいるウサギちゃんが先日亡くなったんですよ。や、これは一週間も前のことなので事件との関連性は考えられないッスがね。んで、ここからが重要ッスが、そのウサギちゃんのお墓が荒らされた形跡があったらしいんッスよ」
 確かに妙といえば妙か。
「そこで飼育委員の生徒が確認したらしいんッスが、なんと、ウサギちゃんが数匹いなくなっていたわけッスよ!」
「忠告してやる。ウサギは数羽だ。もしくは兎」
「細かいッスよー。まあそれほど問題ないだろうということで飼育委員も放っておいたらしいッス」
 それでいいのか、飼育委員。
 しかし、なるほど、ウサギか。
 果たしてこれが真実なのか嘘なのかカモフラージュなのか。
 保留。
「それとッスね。廊下のワックスが予告なしにされていたらしいッスよ? けどこれって、イマイチ先輩がよく言う『校長の道楽』なんッスよね?」
「あの校長は元清掃員だったらしいからな。時に壁のペンキもやってる。どうしてそんな清掃員が校長になったのかが我が校の七不思議の一つにあがっている」
「これで校長が犯人だったら大笑いッスよー。今までのワックスがけもこのために仕組んだことだとか」
 否定、できるか?
 動機と関係があれば誰でも容疑者や犯人になれる。誰がなってもおかしくない。
 つまり世界中の誰もがその可能性を秘めているわけで、決して校長が犯人だとしても笑い話ではない。
 橋凪も事実、そういったことになれば笑い話になどせずに真摯な表情でエピローグを語ることだろう。
 ―――と、オレは犯人を捜したいわけではなく。
「御酉那乃羽の挑戦に勝利したいだけだ」




 6.5

『つまるところ、その挑戦を甘んじて受けたお兄ちゃんが悪すぎるの』
 帰宅後、今日の出来事について愚痴に近いことを我が妹――今樫二七(いまがし・にな)――に言っていると紙に黒いマジックペンで返事が返ってきた。
 突然の行動に珍しく目を見開かせていると、ニナは続けてマジックペンを持ち、スケッチブックの紙に文字を書き殴っていく。書き終わると同時にテーブルの上に立てられた。
『お義姉ちゃんの言うとおり、放っておけばお兄ちゃんには何の出来事もなかったはずなの。日常を過ごしていられたはずなの』
「……親父のヤツ、今度はニナに何を仕込みやがった」
 ニナは別に喋れないといった障害持ちではない。
 今樫二七。中学2年生。妹。成績トップクラス。人当たりのいい性格。髪の毛は大抵ポニーテール。年相応の可愛さ。身長は同年代女子平均以下。体重不明。スリーサイズなんてもってのほか。
 妹のことを親以上に理解しているオレのデータベースに彼女が障害を持っているというデータは存在しない。
 つまり、これは“親父の道楽”からきていることだろう。
『口が喋れない演劇部の少女という役柄なの。“なの”をつけるのがポイントなの』
 もう名前は頭でも言いたくないので親父でいかせてもらう。親父は何かとゲームに影響を受ける癖がある。注目すべきキャラクターを見出すとそれを自分の娘に仕込むのだ。
 というよりもその言いつけを守っているお前も甘んじて受けすぎだろう。
 続いて書いていこうとするニナからマジックペンとスケッチブックを奪い取り「普通に喋れ」と呆れながら告げる。
 どうやらちょっと気に入っていたらしく名残惜しそうに奪い取った道具を眺めているが、ここで負けるわけにはいかないので少しばかり睨みを利かせる。
「……わかったなの」
「わかってねぇよ」
 なの、つけるのやめろ。
 軽く「あーあー」と声の調子を直してから一度目を瞑って体勢を整える。
「……うん。大丈夫。それで続きだけれどお兄ちゃんは人事に首を突っ込みすぎるのが難点だよ。それで遙さんやお義姉ちゃんを困らせるなら尚更。もう既にクライマックスに近づいているみたいだから何を言っても無駄だろうけど。それに事件解決はもうしないんじゃなかったっけ?」
 そこで落ち着いたように椅子に座り込んで、テーブルの上に置いてあったホットミルクに手を伸ばす。もう夏も間近というのに我が妹は少しでも身長を伸ばそうと必死のようである。
 クライマックス。終焉。解決。完結。確かにもうページが残り少なくなってきている。ネバーエンディングストーリーではないこの事件。無論ファルコンなんて出てこない。そういった意味では確かに頭の中では終わりを迎えている。だがそれでいいのか。
「事件解決じゃない。オレがやりたいのは殺害方法だ」
 そう、落ち着いた様子を振舞ってみるが、言い訳がましかったらしくニナの頬は膨らむ一方だ。
「同じことだよ。結局はそれによって犯人も突き止めちゃうわけだし。事件解決には変わりはないよ」
 溜息一つ。
「それに犯人なんて、もうわかっていることじゃない。どうしてそれを言わないかなぁ。その人を突き詰めた方が何分早いよ」
 確かにその方が早いだろう。だがしかし、それではオレが敗北してしまう。
 御酉那乃羽に敗北の白旗を揚げることになる。
 ふと。
「そういえば同じことを橋凪も言っていたか」
「あ。やっぱりお義姉ちゃんも同じこと考えてたんだ。嬉しいな」
 三口目に突入しようとしたところで、笑ってそう答えた。
 そう、ニナは橋凪のことを『お義姉ちゃん』と親しみを込めて言っているのだ。橋凪自身も嫌がっておらず、お互い姉妹のように仲が睦まじい。なぜ『お姉ちゃん』ではなく『お義姉ちゃん』(発音は同じなのだがニナはやけに拘っている)なのかはよく理解できない。理由を訊こうとするならば意味深な笑みを浮かべるので最近は質問を控えている。
「だが、こちらも退けない理由があるからな。それは却下だ」
「はぁ。そう言うと思ったよ。妙なところで一直線だからね。そんなお兄ちゃんを止める人が全くいないというのも大変だなぁ」
「ツッコミ役としては喜美野がいるが」
「希お姉ちゃんは流れに任せて面白かったらノるタイプだよ。止めるに値しないよ」
 酷い言われようだが確かだった。入学式のこともあるし。
 オレも喉が渇いたので冷蔵庫から適当に飲み物を取り出す。アルコールは嗜む程度には飲むがさすがに妹の手前なので控えておく。よって無難にオレンジジュース。果汁100%。
 喉を潤していくと同時に頭もすっきりしてくる。一息つくというのは大事のようだ。
「ホント言うとね」
 コップを置いて溜息を吐く。
「この事件は最初から仕組まれていたんじゃないかって思うの。御酉さんの生も死も。お兄ちゃんが介入することも。こうして事件を暴いていくことも。何もかもレールの上に敷かれた出来事。こんなに殺人事件に遭い続けるのは誰かに仕組まれたものとしか思えないよ」
 もう既に、今樫という家系――正確に言うならオレとニナ――は両手で数え切れない事件に遭遇し続けている。それこそ漫画やアニメの探偵もののように。
 誰かに仕組まれたことならば、もうそろそろ楽させてもらっていいのではないか。目の前で人が死んでいる姿を見慣れるというのは一般人では有り得ない経験だ。それにどうしてオレたちなのか。今回は結構楽な悪戯の類としても、どうしてオレを巻き込もうとするのか。
 『世界のために必要なのだ』『君は天性の才能を持っている』なんて今更流行らない台詞でも神様が吐いているのか。もう、やめろ。
「誰かに操られているとしたら、それは――――」
「ニナ。その話はやめろ。その話は、この事件が終わって、終着駅に着く寸前に話すべきことだ」
 そう、今は全体的な問題を解決するべきではない。個別的な現在の問題を片付けるのが先なのだ。
 ホットミルクが入ったコップから湯気が立ち上る。
 その煙の壁の向こう。今樫二七。我が妹。
 今、彼女はどういった心境だろうか。オレのように心が強くない彼女は今をどう生きているだろうか。殺人が毎日のように周りで起きる現代。友人だったかもしれない人間が死ぬ現代。それを素直に受け止めることが彼女には出来るのだろうか。
 さしずめ、この煙がオレとニナの境界線といったところだろうか。何の境界線なのかはわからないが。
「さて」
 頭がすっきりした。
 とりあえず、駒は揃った。
 なら、エンディングと参りますか。








    


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