それは、平穏と平凡な日々の毎日。



 ―――1.朝に目覚めて

 衛宮士郎の朝は早い。
 毎朝、平日休日問わず5時半に起床する。
 どれだけ遅くに寝ていようともこれだけは体が慣れているのか、時間になるとまるで水に浮かぶかのような気持ちで目を覚ます。
 故に頭痛がするはずもなく、ここ最近は気持ちのいい朝を迎えるのである。
「……けど、今日ばかりは」
 少し頭がフラフラする。何かを吸い取られた気分なのだが、それが士郎にとっては心地よい。
 どこか優しく、どこか暖かな気分になる。それは隣で寝ている少女がいるからに違いない。
 何か吸い取られた気分と述べたが、それは事実で、彼は実際吸い取られている。
 主に魔力。あとその他諸々。
 士郎は軽く呻き、腰を叩きながら同じ布団で未だ寝息を立てて寝ている少女に目を向ける。
 まず目に付くのがその金色の髪。まるで宝石のように輝くそれは、早朝の日の光を浴びて更に輝きを増す。
 次に布団で半ば隠れている肌。彼女は筋肉がついていて嫌いとはいうが、そのようなことはない。少女相応の柔らかさがあるのを士郎自身が知っている。
 そして今寝息を吐いている唇。何度重ねたか数え切れないそこはまだ潤っており、どこか悩ましく、艶かしい――――
「って違う違う!」
 頭の中で昨夜の情景が浮かび上がる。綺麗な素肌が脳裏に―――ダメだ。拭おうにも焼きつきすぎている。
「む。こうなってしまったのはお前のせいだからな。―――セイバー」
 と、愛しい人に八つ当たりしてしまう。
 聖杯戦争において、聖杯により呼び寄せられた騎士のサーヴァント、セイバー。彼女の正体は伝説に残ったイングランドの大英雄アーサー王である。黄金の丘を駆け、幾多の戦場を切り抜けた騎士王は今やその面影はなく、永い永い夢の続きを満喫していた。
 いや、もう彼女を騎士王と呼ぶのはいけないだろう。彼女はもう既にサーヴァントでもなく、アーサー王でもないのだから。
「―――……シロウ?」
 士郎の小声が聞こえたのか、少女はうっすら目を開いていく。
 士郎とは違い、彼女の目覚めは少し遅い。誰かに起こされなければ朝食の連絡があるまで寝ている。それはかつてのように寝ていなければ魔力消費が激しいというわけではなく、単に睡眠の時間が過去において少なかったからだ。平穏な世になって心を休ませている彼女は今更ながらに睡眠は大切な欲求だと気付いたのだ。
「あ、起こしちゃったか?」
「いえ」
 体を起こすとシーツを素肌に巻く。その動作がやけに手馴れているのは数を重ねた結果か。……嫌な結果なのは確かだ。
「おはようございます、シロウ」
 やんわり微笑む顔を見て士郎はやっと朝が来たと思える。彼女の顔を見てこそ一日は始まるのだ。
「ああ、おはようセイバー」
「む」
 突然、その台詞に頬を膨らます。感情は手にも伝わり、シーツを掴む力も若干強まっている気がする。
 翠の瞳は士郎を射抜き、途端に彼を困らせる。
 こういった表情をするのは自分が何か失態をしたせい。それもとても大切なことだ。そう、絶対守って破ってはならない子供のような約束。
「―――あ」
 思い出した。
 本当に子供のような、けれど彼女にとっては守らなくちゃいけない約束。
 心で謝り、そして言葉にして謝ろう。
「ごめん。おはよう、アルトリア」
 その言葉にセイバー―――アルトリアは満足したように再び笑みを浮かべて
「はい。おはようございます、シロウ」
 よく考えれば挨拶するのは二度目だと気付き、二人して笑う。なんとも馬鹿らしいが実に自分たちらしい。
 だから、これも自分たちらしいのだろう。
 すると二人はまるで導かれるように、顔を近づけていく。
 肩に添えられる手をアルトリアは払いのけることなく、身を任せるかのようにゆっくり、ゆっくりその時を待つ。
 対する士郎も優しく位置を確かめながら彼女の艶かしい唇に自分のそれを近づけていく。目に映るは瞳を閉じてその時を待っている愛しき少女の顔。その全て。この世界を敵に回しても愛するであろう人の顔。正義の味方の意志など吹っ切れてしまいそうなその想い。それを今、迎えようとしている。
 そして――――。

「シロウーーーー! 朝だから起きなさーーーーーい!」

 邪魔が入った。
「あ」
「う」
「?」
 三種三様。
 邪魔に入った――無論、悪気はない――イリヤは二人の生まれた姿で絡んでいる様子に絶句し。
 今まさにといったところで止められた士郎はイリヤの姿を確認し固まり、焦る。
 そして、平和な世界で腑抜けてしまった騎士王はあれほど大きな声をあげられていたにも関わらず、気付かぬ様子でまだ目を瞑って待っていたり。
 見る角度が変われば、妻が帰ってきたところで夫が愛人といちゃついていたように見えなくもない。ただしイリヤの姿がそれ相応であればの問題なのだが。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。見た目、十代前半。これでも精神年齢は高めである。
 それゆえに何をしていたか一目瞭然なわけで。
「……シロウのえっち」
 そう、呟くように言ってのけた。




 ―――2.最果てのイマを

 ドスドスッと縁側の床が壊れるのではないかと思うほど音を立てて歩くイリヤの表情はかなりお冠である。
 朝から大人の情事を見せ付けられてはどれほど精神年齢の高いイリヤでも怒るに決まっている。もっとも、ノックもせずに入った自分も悪いのだろうが。
 そんな彼女の後ろで従者のように連れ添うのは衛宮士郎。相当イリヤに言われたのか、表情はやや暗い。
「もうっ! アルトリアといちゃつくのはいいけど、わたしが見ていないところでやってよね!」
 ぷんぷんっという擬音が似合いそうな表情で突き進んでいく彼女を見て、士郎はただ「はぁ」と答える。やる気のない返事だが、イリヤは全く聞いていない模様。
 こういったとき、イリヤの耳には何も入ってこない。感情により五感が左右されている感じだ。一方的に言葉を連ねて、こちらの言葉には耳すらも傾けてこない。無邪気な子供のようで半ば手におえない状態だ。
 今はいないアルトリアというと、事態に数分かかって気付き慌てて隣にある自分の部屋へ駆け込んだ次第。あの調子だと恥ずかしくて朝食が出来上がるまで出てこないだろう。今日の教訓、慣れというのは時に災いをもたらす。
「そういえば藤ねえは?」
「ん、タイガ?」
 イリヤが感情の起伏関係なく耳に入れる話題といえば、一緒に住んでいる――間借りの方が正しいかもしれない――藤村大河のことだ。この二人、お互いを年齢の垣根なく気軽に話し合っている。それだけイリヤが気を許しているのだろう。
 うーん、と口元に手を当てる姿を見て「確認してないな」と結論付ける士郎。多分、士郎を起こすことに一生懸命で彼女のことをすっかり忘れていたに違いない。半ば彼女を起こすのを面倒くさがり始めたのかもしれない。
「どうせ朝食になったら来るでしょう。それより、シロウ。話題をそらさないで。わたしは怒ってるんだから」
「わかったわかった。今日はイリヤの好きなものを食べさせてやる。ついでに今度の休みは一緒にどこかに行こう」
「何か取って付けた約束だけど……それで許してあげる。だってそれってデートでしょ?」
「え、っと。まあ、そうなるかな」
「うんっ、なら本当に許してあげる! ちゃんとエスコートしてよ、シロウ?」
 喜ぶイリヤの姿を見て、士郎はほっとすると共にあとでアルトリアに何か言われそうだなーと不安になった。
 心機一転。イリアは切り替えが早い。士郎の腕を掴んでステップを踏むかのように居間へと向かう。
 衛宮家の朝は早い。もとより家主の士郎が早いのだから、そこに集う者たちが早くなるのは道理だ。朝食に時間がかかるというのも理由に入るだろうが。
 台所に足を踏み入れると今日は誰もいないようだ。
「桜も遠坂もいない、と。よし」
 近くにかけてあった自身のエプロンに手を伸ばし、パッパッと付ける。袖まくりもして準備完了。頭の中では朝食のメニューを模索している。
 傍にいたイリヤも士郎がやる気を出したのを察し、離れた場所から彼の姿を覗き見る。
 士郎のその姿はあまりにも似合いすぎていた。男性にこういってしまっては失礼かもしれないが、それでも彼は台所という領域でまるで王の如く君臨していた。誰も踏み入れさせないような雰囲気をまとって彼は顎に手を当てて考える。
「イリヤの好きなもので固めるとすると……やはり洋食になるよな。朝にシチューは重たすぎる、か? とりあえずパンを主にして――――」
 ぶつぶつと独り言を呟きながら脳内では様々なメニューが行き交っている。士郎のレパートリーは和食がメイン、洋食がサブメイン。中華は齧る程度でしかない。今では洋食は後輩に任せている身としては久々のジャンルに自然と心が湧き上がる。
 と、煮詰まったのか冷蔵庫を開けて在庫を調べ、必要な材料を抜き取ると素早く閉める。まな板の上にそれを並べると、その手は袋詰めにされているパンへ。どうやらサンドイッチにするらしい。
 その流れる作業を見て、イリヤは笑みを絶やすことはない。
 イリヤは士郎のその姿が好きだった。たかが料理されど料理。衛宮士郎はそれに一喜一憂しながら取り組む、そんな本当の姿をイリヤは心から好きになっていたのだ。
 出来上がりを楽しみにしながらイリヤは居間へと戻り、ぺたんと座り込む。
 大河のことが気になったが、彼女もアルトリア同様、飯の時間に遅れることはそうない。放って置いてもくるだろう。
 士郎の調理する音を後ろに、イリヤは何の意味もなくテレビをつけた。
 この時間帯に流れるものとは大抵ニュース番組である。それも誰かの不運、不幸を告げる負のニュース。
 殺人。放火。強盗。戦争。自殺。死去。逝去。銃撃。恐喝。麻薬。大量殺人。連続殺人。不審者侵入。
 それを見てもイリヤに去来する感情はない。一言。
「…………つまんない。これじゃあ聖杯戦争の方が怖いに決まってるじゃない」
 何せ、欲望のために七人の魔術師が顔をあわせて戦うのだ。その凄まじさはまさしく戦争。
 時に無害の人物を勢いで殺し、時に自然を破壊し、時に自分の使い魔を保つために人を殺す。ヒトのようでヒトでなく。ヒトの感情を持ちつつ、ヒトではない力で戦う。人外の戦争。
 それが、聖杯戦争。
 空虚だ、とイリヤは思う。
 自分の存在価値が失われた現在。聖杯戦争のない現状。それなのにどうして自分はいるのだろう。
 確かに人に触れ合う、特に士郎と一緒に居るのは嬉しい。
 だが、それだけ。
 それだけのために今、自分は生きていいのだろうか。
 このまま消えてしまって、何もなかったように生涯を終えていいのではないだろうか。
 所詮自分は、聖杯戦争のために生まれた存在ではないか――――!
「……イリヤスフィール?」
 隙を付かれ、声がかけられる。思わず体が振るえ素の表情で振り返ってしまう。
 士郎に見せている幼い少女ではなく、魔術師としての獣の表情を。
 鋭い視線を向けた相手はあまりにもあっけらかんとした顔で彼女を見ていた。
 眼鏡の奥に潜む瞳は慈愛に満ちているようで畏怖のようでもあった。
 まず、瞳孔が普通と違う。四角い。ヒトではない。もし、眼鏡越しでなければ射抜かれて死んでしまうのではないかと想像してしまうほど。
 もっともそれは普通の人間だけであって、イリヤにはそのような感情は抱かない。
 単に、これは落ち着かねばといった程度である。
 拳が振るえない。牙を向けない。汗をかけない。
 猛獣が意気消沈するかの如く、イリヤの表情もすとんっと元に戻った。
「なーんだ。ライダーか」
「なんだ、ではありません。顔色がおかしい。体調が思わしくないのであればすぐ藤村の方へ―――」
「ううん。だいじょうぶ。ちょっと自己嫌悪していただけだから」
 そう、あしらうと再び彼女の顔を見る。
 そこには畏怖の感情などない。まったく普通の、いつも見ている彼女だ。
 名はライダー。彼女もまた聖杯のよって呼び寄せられた騎兵のサーヴァントだ。
「それならよいのですが」
 ふっとライダーもそれほど心配していなかったのか、足元まで伸びる紫の髪を靡かせ、いつもの定位置に座り込む。
 手には新聞。どうやら衛宮邸に入る際に一緒に持ってきたのだろう。
「サクラは?」
 イリヤもそれ以上関心がないのか、再びテレビを見つつ言葉だけで彼女と共に来るはずの少女の名を告げる。
 時間を空けて、ふぅという溜息が紙を捲られるような音と共に聞こえた。
「……貴女は本当に気が緩んでいたようですね。サクラならば既に台所の方へ行きましたよ」
 え、と驚きの声を小さく上げると台所へ目を向ける。そこには家主で今まで一人で作業していた衛宮士郎の隣に

『先輩。このスープはどうしたらいいんでしょう?』
『ああ、それは―――』

 彼女の名と同じ、桜色のエプロンをした少女が隣に立っていた。
「――――――」
 おかしなことだった。
 台所に入るためには自分の後ろを通らなければならない。それほどの接近、感じ取ることが出来ないはずがない。過去において奇襲など自分には不可能。人の気配を読めぬことなどなかった彼女にとってこれは驚愕以外の何者でもなかった。
 それに答えるように
「平和な世ですから、貴女も気が抜けているのではないですか」
 ぽつり、と口に出した。
 否定、出来ただろうか。
 聖杯戦争終結後、自分を囲む空気は一変した。
 衛宮士郎はいつもの日常を取り戻し魔術とは程遠い世界へ。
 遠坂凛は相変わらずだが聖杯戦争時ほどの険悪なムードはない。
 アルトリアは士郎と共に生き、その顔には笑顔が絶えない。
 間桐桜とライダーは既に主従関係ではなくなり仲の良い姉妹のように振舞っている。
 では。
 では、自分は?
 自分はどうなのだろうか。
 周囲は変わっているのに、自分は変わらずのままなのか。
 いつまでも聖杯戦争のことを引き摺ったままでいるのか。
 自分の存在価値などその程度なのか。出来事一つで崩壊するほどの存在理由なのか。
 是。いや、否。
 もしかしたら後先少ない命かもしれない。風前の灯かもしれない。
 だけど、本当に変わってもいいかもしれない。
 今までも変わっていた。知らぬ間に変わっていた。
 もっと、もっと変わろう。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが生きていた証を誰かの胸にずっと残しておくために。
「……? イリヤスフィール?」
 ライダーが声をかける。今度は驚かない。何故か質問するだろうな、と予想できた。
 心が変動しているのだ。突然のそれに体が反応しないわけがない。
「わらっているのですか?」
 ニュースは今も尚不幸のニュースを伝えている。内容をすり替えただけの見慣れたもの。
 今日も誰かが死んでいる。何かを告げて死んでいる。
 いずれ、己にも訪れるそれを微かに恐怖しながら今は朝を迎える。
 そう、笑って。
「―――ううん」

「自分の切り替えの早さに呆れているところよ」




 ―――3.虎 vs 兎 獅子 vs 蛇

「えー、パン食なのー!」
 そう嫌がる声で言うのは藤村大河。これでも25歳(独身)である。
 何着あるのかわからない虎柄のシャツに身を包み、パタパタと両手を上下に振る仕草を見る限りそうは見えないだろうがそうなので信じよう。
「パンじゃない。ちゃんとレタスとか挟んであるだろ」
「そういう問題じゃないやい! 士郎ー、おねえちゃんご飯がいいよー。炭水化物ぷりーず」
「アンタ、本当に英語教師か」
 発音の怪しい英語を聞きながら、渋々皿にご飯を盛る限り予想はしていたようだ。
 わーい、と喜んでマイどんぶりに盛られた白米を勢いよく掻き込む姿は、女としてどうかと思う。
 しかしこれで終わらないのが衛宮家の食卓である。
「…………」
「……アルトリアもだな」
 大河の豪勢な食べっぷりを見て、アルトリアは呆然としながらも一種の憧れを抱いてしまった。
 思わず、恥ずかしがりつつも士郎に視線を送ってしまうというものである。
 器一杯に積まれた白米を渡すと、本当に申し訳ないですシロウ、と心で涙を流しながら彼女は受け取った。
 念のため目玉焼きも作っておいて正解だった、と胸を撫で下ろす。
「なによ、タイガ。洋食がきらいなわけ?」
 サンドイッチそっちのけでご飯を頬張る大河にイリヤが一蹴する。隣で頷くライダーを見ると彼女もどうやら洋食派の模様。
 その相手はというと、ほえ? などと口元にご飯粒をくっつけながら不思議そうな顔をする。
「ん? 嫌いじゃないけどパンって物足りないじゃない? 見た目の問題だけど」
「はぁ……これだからタイガーは」
「にゃ、にゃにー! と、虎って言うな! どう見たって量的に少ないよ、パン食!」
「パン食、パン食、言わないでよ。あのねタイガ。こういうのは量の問題じゃないの。バランスなの。エネルギー換算して丁度いい具合にしたのが朝の洋食なわけ。それに手がかからず忙しい人にはうってつけよ。―――例えばタイガ、貴女みたいに起きるのが極端に遅い人にはね」
「……む。むむむっ。イリヤちゃん、なんか吹っ切れてない? 小悪魔度が格段に増えた気が」
 苦い顔をする大河を淑女の笑みで返すイリヤ。当分この関係は壊れないだろう。いや、二度と。
 手軽だけど手を抜いたつもりはないんだけどなぁ、と言葉にせず士郎は黙ってサンドイッチを一齧りする。
 カチャカチャと物音を鳴らしながら――しかし数人は嗜みを覚えており物音を立てずに食している――朝食は進む。
 賑やかなのは大河だけであり、他は元々食事で喋らない性質らしく静かなものである。
「ふむ………ふむふむ」
 こういった独り言がなければ。
「……アルトリア」
 あまりにも耳障りになったのか、ライダーが明らかに鬱陶しそうな顔をして彼女を見る。
 微妙な変化に敏感なアルトリアは即座に察し「なんですか」とこれまた鬱陶しそうな顔をする。
「箸を進める度に頷くのは如何なものと思いますが。少し目障りです」
 ぐっ、と自分の癖が出てしまったのを指摘されてアルトリアは口を閉ざす。
 どうもアルトリアは美味しいものを食すると思わず言葉と同時に首を縦に動かす癖があるらしい。
 味を研究し、何がそれを引き立たせているのかなど、こと細やかに吟味する。その仕草が思わず表に出てしまう。しかもそれが意図的でないのだから直すのは難しいだろう。
 しかし、言われるだけ言われるアルトリアではない。
 仮にも王を務めた身。口論では負けはしないと自負している。
「では言いますが。ライダー、貴女こそその長ったらしい髪をどうにかしてはいかがかと。それでは折角のシロウの料理が汚らわしくなる」
 実際、ライダーの髪は近年伸びに伸び、首を前に倒すと、その流れる髪が机に傾れている。
 その度に髪を払う彼女の仕草は隣に居るイリヤも少し嫌がっているように見えた。
 ライダーも好きでそんなことをしているわけではない。しかし髪とは女の命。そして命の長さ。おいそれとは切れないのが本音だ。
 フッと妙な笑みを浮かべるアルトリア。ぴくぴくと眉間を震わせるライダー。
 机を挟んで対峙する二人。険悪なムードを醸し出しながら一触即発状態。
「ふふふ。いいでしょうアルトリア。士郎の恋人ぶるのも今日までです。私の淫夢を使えば士郎なぞイチコロです」
「なっ、貴様! 人からは魔力を取らないと言わなかったのですか!」
「それとこれとは別です。思えば我等は元々敵同士。最初から貴女は気に入らなかったのですよ! そして、士郎を寝取る!」
「クッ。シロウがその程度で態度を変えるとは思えない。私とシロウは一心同体。このようなところで取られるわけには―――というか、食事中に何をカミングアウトしてますか貴女は!!」
 獅子と蛇の対立はなおも続きそうではあるが。
「……とりあえず、当人の目の前ではやってほしくないよなあ」
 止まることのない罵倒に、ずずずっと茶を啜る。やはり紅茶より緑茶だよなと和食派の衛宮士郎は事態を眺めていた。
 そんな傍ら
「―――ライダー。あとで見ていなさい」
 ライダーのマスターである、間桐桜は満面の笑みを浮かべながらサンドイッチを握りつぶしていた。
 もうそりゃ、ぐちゃりと。
 思わず静観していた大河とイリヤもその暗闇に抱き合ったりしたとかしなかったとか。

「そういえば、インムとかマリョクって言ってるけどなに?」

 大河の素直な問いに答えるものは誰一人としていなかった。








つづいたりつづかなかったり

[あとがき]
セイバー復活。イリヤ生存。ライダー現界というトンデモSS。
いわゆるファンディスク仕様。もうどうにでもなれ企画です。
こういう風につらつらと短編みたいな連載みたいな流れをやっていきます。話はちゃんと繋がってますよー。
……にしてもこれではギャグなのかシリアスなのかほのぼのなのかジャンルわけが難しい。
凛嬢は次回。とりあえず一日を無駄に過ごしてみて、二日目にハプニングを予定。
次回は―――

4.ネボスケロマンチスト
5.両手に花ならぬ棘・登校篇
6.はらぺこアルトリア

の予定。
予定は予定だぞっっっっ!(ぉ

―――2話終了時でも一日目午前という事実。

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