姉妹ゲンカ



「祐一さんすぐに終わりますから動かないでくださいね」
「ああ」
 ちょっと遠慮がちに言ってからスケッチブックに向かって絵を描きはじめる栞。
 しかしすごく楽しそうに見える。
 栞にとって人物(特に好きな相手)が描けるということはとても幸せなことなのだ・・・・・・
 そして、その幸せを邪魔する者は相手が誰であろうと栞は容赦しなかった。
 今回はそんな話である。




 暖かな日差しが心地よい春先のこと
 俺は散歩ついでに色々と考え事をしながら歩いていた。
 するとあの思いでの噴水のある公園まで自然に歩いてきていた。
 そして気がつけば、スケッチブック一式を持って目をキラキラさせながら俺の方を見る栞と出会った。
「よう、奇遇だな栞」
「はいっ!まさか会えるとは思っていませんでしたからびっくりしました。」
 そう言いながらも俺のほうにずずいっと寄ってくる。
「・・・・今日は風景画だよ・・・な?」
 俺はこれから栞が言うであろう言葉を聞きたくなかったから、無駄だと分かっていても話を別の方へ持っていこうとした。
 しかし運命は残酷だ。
「はい、そう思っていたんですけど、いいところに祐一さんが来てくれましたから今日は人物画が描けそうです。」
 やっぱりこうなるんだよな。
「・・・・・・いや、ちょっと用事が・・・・」
 俺は勤めて平静を装いながらもこの場からなんとか逃げようと思った。
 しかし・・・・・・・
「祐一さん・・・モデル・・・やってくれますよね?」
 栞はちょっと悲しそうな顔をして訴えてきた。
 俺はこの顔に勝てるはずもなく
「もちろんさ」
 二つ返事で了解してしまった。




 そんなわけで今俺は栞に似顔絵を描いてもらってるというわけだ。
「・・・・・・祐一さん、あまり動かないでください」
「んなこと言ったってなぁ。結構辛いんだぞ?」
「すぐに終わりますからもう少し我慢してください」
「・・・・・わかったよ」
 栞の言う通りになるべく動かないように俺はがんばった。
 しばらくすると聞き覚えのある声が聞こえた。
「あら栞、こんなところでなにやってるの?」
「あ、お姉ちゃん。うん、祐一さんの似顔絵書いてるの」
「よう香里。奇遇だな」
 声の主は香里だった。
「こんなところで会うとは思わなかったぞ?」
「・・・それはこっちの台詞よ」
「お姉ちゃん、なにかあったの?」
「何にもないわ、ただの散歩よ・・・・それより」
 香里はゆっくりと栞に近づいていきスケッチブックを除きこむ
「・・・・・・お、お姉ちゃん?」
「・・・・・・・・・・栞?」
「な、なに?」
「・・・・・・・・・・これは誰を描いているのかしら?」
「!!」
 栞がびくっと体を震わせる。
 そして引きつった笑顔を見せながらゆっくりと口を開いた。
「お姉ちゃん?よく聞こえなかったわ、もう一度いってみて?」
「何度でも言うわよ。”これは誰を描いている”のかしら?」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 し、栞の体が怒りに震えている。
 このままではとんでもないことになりかねない、何とかしなくては
「お、おい二人ともやめろよ。栞だって一生懸命描いてるんだし、それに栞もそんなこと気にするなよ。何枚も描いていけばうまくなるって」
「・・・・・お姉ちゃん、挑戦と受け取っていいのね?」
「かまわないわ・・・・」
「へ?・・・・」


 そういうと栞と香里はテレビや漫画なんかでよく見た構えをとりはじめた。
「久々ね、最後にやったのはいつだったかしら?」
「私の病気がまだおとなしかったころだったから数年はたっているよ」
「そう・・・・・・」
「二人とも何を言って・・・・」
 俺はとっさに二人の間に入って止めようとした、しかし
「いくわよ!」
「・・・・!」
 言うが早いか香里はものすごいスピードで突っ込んできた。
 いつ付けたのかわからないがその手にはメリケンサックが・・・・・・
「くっ!」
 栞はストールを体の前にまわすとそのまま両手で持ち、香里の鉄拳が飛んでくる一瞬を見計らって、くるりと両手を一回転させた。
 すると香里の右手はストールでくるまれてしまった。
「やるわね・・・・」
「お姉ちゃんこそ・・・・」
 一瞬の間のあと二人は後ろ飛びに飛んで間合いを離した。
「こ、この二人は・・・・」
 俺はポカンと見ていることしかできなかった。
「今度はこっちから行くわよ」
 栞はストールの端を右手で持つと頭の上で一回転だけさせると香里めがけて振り下ろした。
 しかしどう見てもそのストールは香里には届きそうもない。
 二人の距離はゆうに5メートルはあるのだから。
 しかし
「くっ!」
 何を思ったのか香里はぐいっと体をねじらせると横に転がった。
 その理由はすぐにわかった。


 ピシィ
 ゴゴゴゴゴゴゴ ズドーン


「な、木が・・・・」
 香里のすぐ後ろにあった木が見事な切り口で切り倒されてしまったのだ。
 俺には何が何だかわからなかった。
 しかしひとつだけ言えることがある。
 今の二人には近づけないと言うことだ。
「腕を上げたわね栞。」
「私だっていつまでも病人じゃないんだから」
「それなら!」
 香里は少しだけかがんでからものすごいダッシュで間合いを詰めた。
「!」
 そしてメリケンサックをつけた拳で何発もパンチを叩きこんだ。
 栞はそれをすべて紙一重でかわした。
 しかし香里のラッシュはそれでは終わらない。
 文字通り乱打で次々とパンチを繰り出している。
「く!」
 こらえきれずストールを使ってさばきはじめた。
「どうしたの栞、避けてばかりじゃ負けるわよ」
「・・・・!!」
 香里が余裕からか栞に話し掛けた時一瞬だけ隙が生まれた。
 そして栞はそれを見逃さなかった。
「えい!」
 栞はすばやくしゃがみこむと足払いを放った
「え!?」
 香里はなずずべもなく後ろに倒れてしまった。
「今だ!」
 そして栞は追い討ちをしようとストールを振り下ろした。
 心なしかストールの先がボーリングの玉でもいれたようになっていた。
「まだよ!」
 香里は横に転がってその攻撃を避けた。
 しばらく離れてから香里は起きあがった。
「今のは危なかったわね」
 今のを避けるなんて何者だよ・・・・・
 そんなことを考えている内にこの状況に慣れたのか俺はようやく動くことができるようになった。
 そして今度こそ二人を止めようと走りはじめた。
「無理だとわかっていても・・・・・!」




「次で決めるわよ」
「いいわ、お姉ちゃん」
 二人は次の一撃で決着をつけようと互いに相手の隙をうかがっていた。
{このパターンは・・・・・}
 俺は心の中であることを考えていた。
 いや、それは予感だったのかもしれない。
 二人はまったく同じタイミングで走り出した。
 香里はメリケンサックを、栞はストールを右手に巻きつけて
 リーチはまったく同じ、ダッシュのスピードも
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
 そして二人の中心目掛けて走っていく俺
{こりゃ絶対俺殴られるじゃん}
 呑気にそんなことを考えていた。
 その時は俺の思考はどうにかなっていたのだと思う。
 そして
「はあああああ!」
「てええええい!」


 ボクゥ ゲシィ


 香里の左フックが俺のわき腹に、そして栞の右ストレートが俺の顔面に見事に決まっていた。
{ああ、これでこのあと目を覚ますと俺は栞の膝枕で目を覚ますっていうのがセオリーだよな}
 膝から崩れ落ちながら”お約束”のことを考えていた。
{これで膝枕なら安いもんだ・・・・}
 しかし俺の予想は見事に外れてしまった。
 二人は俺が崩れ落ちた後も殴ったままのポーズでお互いに目で語り合っていた。
「ここまでやるとは思ってもいなかったわ栞」
「お姉ちゃんこそ、私じゃまだまだ敵わないね」
 そしてゆっくりと自然体になる。
「ふぅ、暴れたらすっきりしたわ。それにかわいい妹の成長も見れたしね」
「うふふ、ありがとお姉ちゃん。お姉ちゃんに誉められると嬉しいな」
「あら、嬉しいこと言うわね。よし、今日はこれから喫茶店にでも行きましょう。あたしが奢るわ」
「ほんと!?うれしい」
「さ、スケッチの道具しまって」
「うん!」
 そして嬉しそうに手を繋ぎながら歩いていく二人
 俺は忘れ去られてしまったままそのまま夜まで倒れていた。
「おいおい、そりゃないだろう・・・・・」




 夜に外で寝るにはまだまだ寒い春先のことであった。






あとがき

 え〜と・・・・・・・・・どうでしょう?
 いたたたた、そこ!モノ投げない!野次も飛ばさない!
 ・・・・・・・・・・・・
 いや、自分が悪いって事は重々承知してますけどたまにはこんなもんでもいいでしょう?
 たまにハメ外したくもなりますよ。
 ええ!開き直りましたよ!
 ま、少しでも面白いと思っていただけたら幸いです。
 感想も聞かせていただけると嬉しいです。っていうか嬉しさのあまり小躍りしてしまうかもしれません(謎)




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