私は暗闇と夢の中から目覚めました。


暗闇は私の始まりです。


暗闇は私の目覚めでした。


暗闇はその時の私の全てでした。


見る夢はいつも同じ。


形のわからないぼやけた夢でした。


一つ覚えていることは、そこでは私は悲しみに包まれていることだけでした。








ちくたく ちくたくと。








次に目に映ったのは優しい顔と暖かな手でした。


何もわからない私はその手をとることしかできません。


その優しい顔を信じて。











少しだけ悲しい顔をしたその人に連れられて、私は一つの島を目指しました。


僅かに痛みと熱を帯びた胸の鼓動を感じながら。


とても、とても長い時間をかけてたどり着いたその島は私の胸を震わせました。


その震えは私の他にはわかりません。


私にさえも理由がわかりません。








ちくたく ちくたくと。








目が覚めてから私は幸せでした。


誰かの喜ぶ顔を思い浮かべながら仕事をしたり。


少しだけ転んでしまって怒られて、でも本気で怒っていないってわかったり。


自然にあの人の顔を思い浮かべたり。


でも私にはわかりませんでした。


思い浮かべたあの人の顔が。


あるはずだった約束が。


動かなくなり始めた私の体とともに。


消え去ってしまっていることに。











時間は一つではありません。


時間は止まることはありません。


時間は誰にでも平等です。


次第に思うように動かなくなっていく私は周りの皆さんに迷惑ばかりかけてしまいます。


   それでも皆さんは笑ってくれました。


それでもあの人はいつもどおりでした。


それでも時間は進み続けていました。








ちくたく ちくたくと。








私は夢と暗闇に戻る時間が増えてきました。


動かない体は暗闇に入ります。


動かない体は夢しか見れません。


動かない体は、誰にも迷惑をかけてばかりです。


だから私は願いました。


世界が、笑顔に包まれますようにと。











―――――――気がつけば。


箱庭のようなこの居心地のいい場所は。


誰もいない寂しい場所に変わり。


寝顔を見てくれるあの人は


次第に険しい顔つきに。


それが終わりに続く道だなんて


気がついた時には全てが遅すぎました。


引き止める間もなく、そのことに気がつきもせず。


私はあの人と遠く離れていくことを感じました。


心は近づくのに


笑顔は増えたのに


私の耳は、世界と切り離されました。


そして、何も出来ない私は眠ることしか出来ません。


暗い暗い夢の中。


ただひとつの夢と


ただひとつの音を


鳴り始めることを信じて。








ちくたく ちくたくと。

















――――――――時はまた刻み始める。


やっと、刻み始めた時は


全てを終わりの道へと進めたけれど


悲しくは無かった。


だって、何も知らないまま止まってしまうことの方が


どんなに辛いことか、わかっていたから。


私の名前を呼んでくれたあの人


私の名前を思い出してくれたあの人


私は、約束を思い出したあの人と


初めて出会えたことに、深く喜びました。











でも――――――――


動き出した終焉は


語り継がれる時の中で


確実にその足を向けていたのです。


大好きなあの人と


大好きなもう一人の私と


お互いが傷つけ合うことに意味はあるのでしょうか


二人が傷つきあうことに、悲しみ以外何があるのでしょうか。


ひどく静かに、ひどく穏やかに


道を間違えた私の心は消えていきました。


あるかもしれなかった私の未来が、かわいそうなあの人は消えてしまったんです。


でもそれは、あの人に限ったことではありませんでした。


目を覚まして


ほんの僅かだけ許された私の時間


それはもう目の前で止まる時だったのです。


だから私は


もう動くこともできなくて


叫び声を聞く耳すらもうなくて


ただ、一言呟きました。











「――――――――――」




















神様はとても優しいです。


私の最後のわがままを聞いてくれました。


もう、とてもとても小さくなってしまった私の体。


腕も、足も、あるのはあの人を見る瞳。


だけど最後に、約束を守れるようにと。








ちくたくと ちくたくと。








いつもの約束、遠い約束。


忘れられた約束、最後の約束。


時計を……渡す……そんな約束。


神様、願いをかなえてくれてありがとう。


そしてさようなら。私の大好きな人。























リニアはここでさよならです。




















願わくば、次に目覚めた時にもあなたのそばで……





























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