「う〜〜〜〜ん……う〜〜〜ん……」





「また、見事な唸りっぷりやな」
「なんか動物みたいよね」

 関西弁の青野(あおの) 真紀子(まきし)と、にわちゃんこと(にわたずみ) 景子(けいこ)は、目の前の光景に妙に
感心していた。
 そんな2人を振り返り、七瀬家三女(時々、四女)……本来なら長女………の七瀬(ななせ) 
八重(やえ)が怒る。

「2人とも、何、言ってるんですか!」

 本気で。

「「ごめんなさい」」

 思わず真紀子とにわも素直に謝る。
 要は……3人とも、心配しているのだ。

「にしてもなぁ……」
「なんか拾い食いでもしたの?」
「そんな事は無いと思うんですが……」

 3人の視線の先で……………………………………………














 …………………腹痛で寝込んでいる唸り声の主、由崎(ゆざき) 多汰美(たたみ)を。


               ≪七面地蔵尊≫
 スラ……  襖が引かれる音に、多汰美が首を巡らせる。  そこには、水と薬、一人用の土鍋等を乗せたお盆を持った八重がいた。 「あ、起こしちゃいましたか?」 「ええんよ、八重ちゃん。さっきから起きとったけぇ」  八重は多汰美の枕元まで来ると、お盆を置いて尋ねた。  多汰美が上半身を起こす。 「調子はどうですか?」 「ん〜〜〜〜……落ち着いてるたぁ思うよ」 「それじゃあ、ご飯をどうぞ。お粥ですけど。それと、食後にお薬を」  かすかに湯気を上げる土鍋の中は、具と呼べるモノはさっと混ぜられた梅肉の叩き ぐらいしかなく、まさにシンプル・イズ・ベストといった感じがする粥だ。  八重が土鍋から茶碗にお粥をよそうと、多汰美がゴホゴホと咳き込む真似をした。 「すまんねぇ……わしがこんな体じゃなかったら……」 「お父っつぁん、それは言わない約束よ」  ありがちな、お決まりの会話。  だが、それは打ち合わせも何も無しに交わされて………  2人は顔を見合わせ……やがて、吹き出すように笑った。 「あはは……八重ちゃんもノリがええのぉ」 「いや〜〜〜…なんといいますか、つい…」  ひとしきり笑った後、八重が茶碗とレンゲを多汰美に差し出した。 「はい、どうぞ」 「ありがと、八重ちゃん」  多汰美が受け取ろうとすると、つい…と茶碗が引かれた。 「おろ?」  多汰美が八重を見ると………何やら、笑みを浮かべている。 「な……どうしたん? 八重ちゃん?」  八重は自分でしっかり茶碗を持つと、レンゲでお粥を一掬い………ふ〜ふ〜なんて 冷ましたりしてから……… 「はい、多汰美さん。あ〜〜ん」 「や…八重ちゃん!?」 「あ〜〜〜ん」  ビックリする多汰美に構わず、食べさせようとする八重。 「え…え〜と……皆に見られると恥ずかしいけぇ…」 「大丈夫ですよ。  真紀子さんとお母さんは夕飯のお買い物に出てますし、にわちゃんは着替えを取り に帰ってますから、今この家には…私と多汰美さんしかいないんです」  だから、ほれ……という感じで、八重はズイとレンゲを多汰美の口元に差し出す。 「そ……そうなんか……」 「そうなんです」  こうと決めたら、結構、強引な性格の八重………多汰美は観念して口を開く。 「あ〜〜〜…」 「はい」  多汰美の口内にぬるくなった白濁の粥が滑り込む。 「…ん」 「どうですか?」 「ん、美味しいよ」  柔らかな粥のわずかな塩気と混ぜられた梅肉の酸味が、食欲を引き出していく。 「はい、次ですよ…あ〜〜〜ん」 「え? 次もなん?」 「ごちそうさまでした」 「お粗末さまでした。はい、薬です」  結局、八重に全部食べさせてもらった多汰美は、水で薬を流し込む。 「うふふふ…」  その様子を見ていた八重が微笑んだ。 「どうしたん?」 「いえ……少しは、お姉さんらしく出来たかなぁ〜って思って」 「お姉さん?」 「はい。本当なら、私は半年もお姉さんですから」  なるほど………と、多汰美は得心した。 (八重ちゃんは母性が強いけぇねぇ…………にわちゃんには黙っとこ……)  鼻血を出しながら自分も看病してもらうんだと吼えるツインテールの悪魔を想像し、 多汰美はそう心に決めた。  そんな事を考えてるとは露知らぬ八重は、心配そうな顔で多汰美に尋ねる。 「それにしても、多汰美さん、お腹壊した原因に心当たり無いんですか?」 「え〜〜〜と………実は……すごいあるんよ」  多汰美はバツが悪そうに、舌を少し出した。 「な、なんなんですか?」 「え……と…………多分、食べ過ぎ」  つい…と目を逸らした多汰美を、八重は驚き半分呆れ半分で見ていた。 「食べ過ぎ……ですか?」 「ちぃと思う所があってな……お菓子とか、アイスとか…がんぼがんぼ食べたんよ」  多汰美の頬が少し赤くなる。 「それはまた、どうしてですか? 何か、集めてたとか……欲しい物があったとか?」 「ああ、違うんよ……そういうんじゃのぉて……………実はな………」  多汰美はそこで言葉を切ると、八重の顔を見て……俯いた。  照れているのが、頬の色や仕草で判る。 「八重ちゃんの身代りになりたかったんよ」 「身代り……ですか?」  やっとの事で、告げられた言葉。  しかし、八重は訳が判らないといった顔で、多汰美を見つめた。 「わたしが八重ちゃんみたいに懸賞を当てられるようになりゃぁ、八重ちゃんの代わ りが出来るじゃろ? そうなりゃぁ、八重ちゃんがクジを引かんでもようなるけぇ… ……成長を削らんで済むかのぉ…思ぉて……じゃけぇ……当たりクジ付きのアイスや お菓子食べて、運を鍛えとったんよ」  照れくさそうに、朱に染まった頬を掻きながら、多汰美が微笑む。 「ホンマは…秘密にしておいて、驚かせようって思うとったんじゃがね」 「多汰美さん………」  八重は……こちらも頬を少し朱に染めながら、素直に礼を言った。 「ありがとうございます」 「いや、なんていうかホラ……わたしが勝手にやった事じゃけぇ……」 「いえ……嬉しいです。本当に」  八重が柔らかく微笑み、多汰美の手を握った。 「八重ちゃん……」 「でも、無理はしないで下さいね」 「あ〜〜…うん。ホンマ、ごめんな」  多汰美が頭を下げる。 「ところで……」 「運って鍛えて良くなるものなんでしょうか?」 「あれ?」 END 2004.05.25
<あとがき>  はじめまして。七瀬十左といいます。  偽トリコロかきみーら委員会の末席に参列させて頂いております。  トリコロの二次創作で、お題が『懸賞』という事で、勢い込んでネタ出ししたのは いいんですが、書けたのはコレ……………しかも、ラストをどうするか迷った挙句に、 ラスト手前でバッサリとカット。  おまけに、他に考えたネタは………軒並みボツ。  ─────なんと言うか、難しかったです。  お題は関係無しに。  多分…分不相応にも『トリコロらしさ』を狙ったのがマズかったのでしょう……  反省。  あと、多汰美のセリフが書きにくかったです。真紀子の方が遥かに楽でした。  う〜〜ん……一応は多汰美スキーなのになぁ………………壁は高い。
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