凍てついた心を溶かすのは・・・



奇跡が起こった。

しかし、その奇跡は一人の命を救ったと同時に、

もう一人から大切なものを奪ってしまった。

失われた想い、凍てつく心。

そして少女は、吹雪の中に本当の心を閉ざした…



凍てついた心を溶かすのは…




俺はその高校にやってきた。

職員室で転入の手続きを済ませ、先生についてその教室に入る。

そして自己紹介をしているところで、俺はその少女に目が止まった。

見た目は普通の女の子に見えた。

だが、その少女の瞳の中に、何か全てを拒絶するような吹雪みたいなものを感じた。

何はともあれ、席についた。 そこは偶然にも、その少女の隣だった。

「あ、俺、神崎浩也というんだ。 よろしくな」

その俺の紹介に、彼女もかすかに微笑んで返す。

「あ、うん。 私、水瀬名雪。 よろしくね」

でも、やはりその表情には、悲痛なものが感じられた。

そして放課後。

「じゃ、香里。 俺、栞を迎えに行ってくるわ」

「うん、行ってらっしゃい、相沢くん」

一人の少年が、女子生徒の一人に声をかけると、元気に教室を出て行った。

一方、水瀬さんのほうはたちまち暗い表情を浮かべて立ち上がった。

「ごめん、香里。 私、今日はもう帰るね。 川澄先輩のところに泊まっていくって、

お母さんに伝えといて…」

「うん。 名雪、早く元気出してね…」

「うん…」

そして去っていく水瀬さん。

俺は思い切って、水瀬さんと話していたその女子生徒に話し掛けてみた。

「なぁ、彼女、何かあったのか?」

「私からは何も言えないわね。 どうしても知りたければ、そこに立っている男。

北川くんって言うんだけど、彼から聞いてみたら?」

「あぁ、そうする…」

そして俺はその生徒、北川の元に歩いていく。

「なぁ、一緒に帰らないか? 何かおごるぜ」

「あぁ、いいのか? じゃ、ごちそうになろうか」

そして俺は北川と甘味屋に寄った。

そして注文をしたところで、北川が口を開いた。

「で? 俺におごるって言うからには、何か聞きたいことがあるんじゃないのか?」

「もちろんだ。 水瀬さんのことなんだが…」

「あぁ、彼女のことか。 実はな…」

北川が話してくれたことによると、

水瀬さんとさっき出て行ったあの生徒、相沢は一緒に住んでいたそうだ。

水瀬さんは幼なじみだった彼に想いを寄せていたが、

あの女子生徒…美坂さん…の妹さんの栞って子が回復したのをきっかけとして、

相沢は彼女とくっついてしまったんだそうだ。

想いつづけていた大切な人に去られた彼女は、その心を閉ざした…。

その彼女の事情は、俺の心に少なからぬ波紋をおよぼした。

俺も『彼女』を…

それから数週間後。

俺が北川や美坂さんや他のみんなと打ち解け、

水瀬さんともある程度親しくなったある日…

学校の帰り、商店街で俺は水瀬さんとであった。

「やぁ、水瀬さん」

「あ、神崎くん…どうしたの?」

「いや、たまたま見かけたからさ。 良かったら一緒に帰らないか?」

「ごめん…私、今は一人で帰りたいの…」

「北川から話は聞いたよ。 辛い水瀬さんの気持ちはわかる。 けど…」

そう言った途端、水瀬さんの表情が変わった。

怒りに任せたように、俺に感情をぶつけてくる。

「わかったようなこと言わないで! それとも、神崎くんには奇跡でも起こせるっていうの!?

祐一を私に引き戻すことができるの!?」

「それは…」

「そんなこともできないのに、私に構わないでっ!!」

そう言うと、彼女は交差点に走っていった。

でもそこは赤信号で…

車が走ってきて…

「名雪っ!!」

俺は思わず彼女の名前を呼び、彼女を助けるべく走り出した。

もう失いたくない。 『彼女』も、名雪も。 大切な人たちを…!

俺は交差点に飛び込み、名雪を車の前から突き飛ばした。

でも、その俺の前には車が目前に!

「神崎くんっ!!」

時間が止まった…

白い…

まるで、雲の上にいるように白い世界。

どこだ…? ここは…?

辺りを見回す俺の視界に、一人の少女の姿が入った。

名雪…? 違う。 彼女とは違う女の子だった。 その背には純白の翼が生えていた。

「君はまだここに来るべきじゃないよ…」

彼女は続ける。

「ボクには、名雪さんに奇跡を起こすことはできない。

でも、君なら、必ず祐一くんの代わりに彼女を支えることが…

名雪さんに奇跡を起こすことができるはず…

彼女の心の氷を溶かすことが…

だから、戻って。 君を必要としている人のいる世界に…」

そして、俺の視界が光で埋め尽くされる。

「…くん! 神崎くん!」

どこか、聞き覚えのある声。

目を開けると、そこには水瀬さん…いや、名雪の姿があった…

「なゆ…き…?」

「神崎くん…良かったぁ…」

名雪の瞳からこぼれている涙…。 それはまるで、ダイヤのようだった。

彼女の想いのこもった雫…。

「ごめん…ごめんね…。 あんなひどいこと言ったのに…」

「いや、いいよ。 大切な人に去られた名雪の気持ち…俺にもわかるからさ…」

「え?」

「1年前…この町に引っ越す前、俺には彼女がいたんだ。

とってもかわいくて、俺にはもったいないような子だった。

でもあの日…

俺たちは親が福引で当てた豪華客船の旅に参加したんだ。

でも、その船が事故にあって…

俺たちが必死でたどり着いた救命ボートには、空きが一つしかなかった。

そのとき彼女は、『私は後で見つけるから、浩也くんが先に乗って』って言ってくれたんだ。

俺はその言葉を信じて、そのボートに乗って助かった。

でも、助かった俺の元に届いたのは悲惨な現実だった…。

彼女の遺体が引き上げられたんだ…。

そのときのことは忘れられない…過酷な心の傷なんだ…」

「そんなことが…あったんだ…なのに…私…ごめん…ごめんね…」

すすり泣く名雪を抱きしめる俺。

「いや、謝らなくてもいいよ」

「でも…」

「ただ、これだけは言わせてくれ…」

「なに…?」

「これからは、もう心を閉ざす必要なんかないんだ。

これからは、俺が相沢の代わりにお前を支えてやる。

これからは、俺がお前の翼になってやる…」

「うん…うん…」

名雪は涙を流しながら微笑む。

それは偽りの笑顔ではない、彼女の心からの笑顔。

心の吹雪が止んだ笑顔だった。

俺たちは痛みを我慢して抱き合った。

そう、これが俺たちの新たな物語のプロローグ…

Fin




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