こぽこぽこぽ―――


 沈む。
 沈んでいく。
 目の前に広がるのは遙か遠くに見える水面と、自分の口から出る気泡。
 その気泡は水面に向かっているのに、自分は全く逆のほうへ吸い寄せられていく。


 こぽこぽこぽ―――


 だんだん体が重くなっていく。何かにひきつけられているみたいに。
 体の中にある空気も出し終えたようで、口からは気泡すらも出ない。
 そのときは自分が死ぬなんて思っていなかった。何故か死ぬ予感などしなかったのだ。
 この底にはまた水面がある。そして背中から水面に出るなんてことも考えていた。
 だが実際そんなこと起きなかった。起きるはずがなかった。

「―――」

 声なんて出るはずがない。空気などない世界だから。
 あぁ、だんだん視界が暗くなっていく。意識が朦朧としてくる。
 だけど何故だろう。これでもまだ死なないという感じがする。
 それが自分の運命のような。
 そして―――暗転。


 その直前に、僕は見たんだ。
 誰かが僕を救ってくれる感覚。手を引っ張ってくれる感覚。
 もしも「まだ死なない」と思うのが運命なら「誰かに救ってもらう」というのも運命なのか。
 見えたのは、暗い世界なのに綺麗に映る青色の髪と、橙色の瞳。


 そして―――


原作:とむはち   執筆:今井秀平
"delicate blue light -under the blue, blue sky-"
(1)




「あっちゃん?」
 扉を叩く音。聞きなれた声。
 その瞬間、僕――青山篤志はそれが夢であったことに気づいた。
「夢―――か」
 上半身をベットから起こす。どうやら天気は晴れらしくカーテンの隙間からうっすら日の光が見えた。
 うん、多分意識も起きただろう。
 体を一度伸ばすと、朧気だが覚えている先程まで見ていた夢を思い出す。
 水――あれは海だろうか――に沈んでいく感覚。死なないと感じる感覚。
 その感覚は未だ覚えている。
「……確かに夢なら死なないよなぁ」
 はぁ、と溜息をつく。なんかがっかりしたような――って死にそうだったのに、なんでがっかりしてるんだ。
 それにしても妙な夢だった。いや、夢というものは妙なものばかりなのだし、ああいう感じの夢は今まで数回見たことがある。
 だが、それでも妙に思えた。
 何が妙かと言われればわからない。ただ、そんな感じがしただけ。
 そういえば、誰かが助けてくれた気がするけど。
 青い髪、橙色の瞳。異人さんかな?
 けど橙色の目なんて残念ながら聞いたことがない。
 そうだ。その助けてくれた人にちょっとした違和感があったはずだ。
 確か―――――
「ねぇ、起きてるの。あっちゃん?」
 聞きなれた声がドアの向こうで聞こえる。
「あ、ごめん。今起きたよ」
 そう言うと、カチャという音をたててドアが開けられる。
 入ってきたのはやはり見慣れた姿の女の子。
 少し茶色がかったセミロングの髪の毛。その両側をゴムでくくっている。
 スタイルはというと、女の子の体なんてじっくり見ないからわからないけど、結構いい方の部類に入るんじゃないかな。
 彼女に言わせれば「まだまだだよ……」らしいけど。そんなにスタイルって大切かなぁ。
「おはよ。あっちゃん」
 そう言って微笑む。だから僕も笑って返した。ベットの上からで失礼だが。
「おはよ。留美」
 彼女の名前は坂城留美。
 留美の家と僕の家は隣同士なので、青山家と坂城家は昔からかなり仲が良い。
 僕と留美もその例に漏れることなく、子供のころ、いや赤ん坊のころから仲が良かったらしい。
 いわゆる幼馴染ってやつだね。
 それが高校三年生の今になっても続いている。
 彼女は毎朝僕を起こしたりしてくれたり、僕もある程度作れるというのに朝食を作ったりするのだ。
 それを友人に言ったら「なんだ? 坂城はお前の通い妻か?」とか言われた。
 だがそれは仕方のないことだ。僕の親はとある研究所の所員をしていて、今大事な研究の最中ということでその場から離れられない。
 つまり無期限の研究所缶詰状態ってやつだ。
 当初、親は坂城家にお世話になれとか言ったんだけど、そこまでお世話になるのは恥ずかしいのでその案は断った。
 留美と一つ屋根の下なんて考えただけで恥ずかしいったらありゃしない。
「それじゃあ、早く着替えて学校行こ? もう朝食は作ってあるから」
「わかった。それじゃあ先に下に下りてて」
 うん、と返事をするとドアを開けて階段を下りていった。
 それにしても、学校かぁ。
 もうすぐ高校生活が終わると思うと少し寂しい気分がする。なんてことない生活だったけどそれなりに楽しかったし。
 これで受験なんてものがなければ最高の1年間を迎えられたのだろうが。
 そういえばそろそろ大学決めないとな。後で留美にも聞いて参考にしてみよう。
 頭でそんなことを考えながら学校へ行く支度をする。
 制服に着替えたり、鞄の中を見て再度今日の時間割を調べたり……
 時計を見るとまだ余裕がある。今日もゆっくり朝食がとれそうだ。
 忘れ物をしていないことを確認し、階段を下りる。
 台所に行くと、もう既に留美は座っていた。これも日常。毎朝彼女は僕と朝食を食べるのだ。
 ……通い妻って表現、合いすぎてるよ。
「どうしたの、あっちゃん。早く食べよ?」
 待ってましたとばかりに、ニコニコしながら俺が座るのを待つ留美。
 椅子をひいて座ると目の前の留美が手を合わせた。僕もつられて手を合わせる。
「いただきます」
「あ、いただきまーす」
 いきなりされると拝まれている感じがするが。これも日常だ。
 今日の朝食は洋食だ。
 トースターで焼いたパン、スクランブルエッグ、ベーコン、レタス。そしてコーヒーだ。
 普通の一般家庭と同じ洋食の朝食な感じがするけど、スクランブルエッグを見るとニンジンが入っていたりと少し趣向を凝らしている。
 昨日なんかパンはフランスパンだったし。といっても丸ごとじゃなくてちゃんとカットされたやつだが。
 留美は本当に感謝してもしきれないほど、僕によくしてくれている。
 まぁ時々彼女の買い物に付き合ったりして、それをチャラにしてもらっているんだけど。
 本当にそれでいいのかって思う。それだけしてもおつりが出てくるくらい良くしてもらっているのに。
 ま、彼女がいいって言うんだから僕もいいけどね。
「そういえばあっちゃん。今日の昼はどうするの?」
 今日の昼といわれて、最初何を言っているのかわからなかった。
 思わず「どうするって学校だよ」と言いそうになるのを止めて、周りを見渡す。
 そして目に付いたカレンダーを見て、思い出す。
「あ、今日は土曜日だったんだね。曜日感覚狂っているかも」
 あはは、と言って誤魔化す。
 巷では週休二日制という学校がかなり占めているらしいけど、僕らの学校はまだ第2,4土曜日だけが休みだ。
 生憎今日は第3土曜日。よって学校へ行くことになる。まぁ午前中だけだけど。
 その言葉を聞いて、留美はくすっと笑う。
「ちゃんと時間割を合わせた?」
 それは確かに合わせたつもりだ。確認もしたし。
 頷くと留美はまた笑った。
「時間割合わせて曜日を忘れるなんて、あっちゃんぐらいじゃないかな?」
「あ、それ。ちょっと酷い言い方だなぁ」
 そんなことを言われても僕はつられて笑ってしまう。
 彼女が悪気で言ったのではないと言わなくてもわかるから。
 そんな雑談をしているうちに、今朝の夢は曖昧になっていった。




「おはよー」
「おはよっす」
「なぁなぁ、昨日のアレ、見たかよ?」
「えー。そんなぁー!」
「げっ、宿題やってねぇ!」
 そんな喧騒に巻き込まれている教室に僕と留美は足を踏み入れる。
 うちの学校はニ年生と三年生の間はクラス替えをしないようにしている。
 どうやら環境を変えると、勉学に集中できないのではという先生方の計らいらしいが。
 そんなわけでこのクラスはニ年生と全く変わらず賑やかだ。賑やか過ぎるほどに。
「それじゃあ、あっちゃん」
 留美は僕の肩を叩いて、手を振る。
 僕と留美の席は離れている。留美の席が廊下側から2列目の2番目で、僕の席が窓側から1列目の最後尾。
 まぁそれによって僕が不利になるということはないんだけどね。
「ん。それじゃあ」
 留美が席に向かうのを見届けると、自分の席に歩いていく。
 席は出席番号順ではない。もしそうなら僕はもう少し前に位置しているだろう。
 これは三年生に昇級した直後にこれまたニ年生と同じ先生がくじ引きをして決定した席なのだ。
 白熱したくじ引きの末、僕は誰もが狙っていたこの席に決定したというわけだ。
 ふぅ、と息を吐いて席に座る。あぁ……やばい、暖かくてちょっと眠くなりそう。
 春の陽気に誘われそうー。
「今日も羨ましいようなご出勤ですな。あっちゃん」
 机から生えたように顔が出てきた。それは見慣れた顔。
 一気に目が覚めた。
「……。あっちゃんて呼ばないでよ」
 はぁ、と肩が落ちる。
「何を言っているのかね、篤志くん。高校三年生になって、恋沙汰事なんて考えられるかぁという時期に君は見せ付けるかのような坂城留美嬢とのご出勤。これをどうやって羨ましくないなんて言えるのか、反語! 俺に喧嘩うってんのかっ!!」
「いや。まず、僕の言葉の答えになってない」
 ダンッと僕の机に片足を乗せている熱弁者を軽く流しておく。ちなみにもう片方は前の席の椅子を使用。
 ごめん、前の席の人。先に僕が心の中で謝っておくよ。そして、もし命があるなら僕の机にも。
 そんな僕の気も知らず、熱弁者は更に熱を上げようとする。
「ちくしょうちくしょう。なんでお前はそんな羨ましい環境なんだよ、篤志。俺もそんな『幼馴染に「おはよう♪」』なんてシミュレーションをしてみたいさ。そうさ、それが男の浪漫だ。わかるかね? そして起きない俺に最終手段として頬にキスなんかするんだよ! 頬を染めながらなっ!」
「それを言うならシチュエーション」
 微妙に間違えてるし。
 僕が呆れているのをよそにクラスメイトはもう慣れたようで、自分たちの会話をしている。絶対、日常茶飯事化されているよ。
 そして熱弁者はヒートアップ。
「くそぉ! お前に、お前に俺の気持ちがわかるかぁあああああああああああああ!!」
 そろそろ止めた方がいいかな。ここまで熱弁すれば彼も気が済むはず、かと。
 留美なんかはまだ慣れてなくて(当人ということもあるだろうが)、頭を机にぶつけているし。多分かなり痛いはずだ。
 また一部男子は彼の熱弁に涙を浮かべながら頷いている。なんか怖い。
 しかし、こんな彼でも僕の一番の親友なのだから、なんともまぁ妙な親友を作ったもんだと僕も思う。
 ということで―――
「あとでチョコバー奢るから」
「あ、マジで?」
 そう言うと、机から足を離す。
 なんて簡単な、と思うかもしれないけどこれが熱弁者――田嶋啓司の特質なのだから仕方ない。
 無類のチョコ好き。しかもアーモンドなんて入っていれば涙物らしい。
 田嶋啓司との出会いもチョコ関連という変な出会い方で、入学した次の日の食堂。
 彼は大好物のチョコバーを地面に落として相当ショックな様子だった。
 もう、それはノストラダムスの大予言が見事に外れてしまい愕然とする当時の評論家みたいに。
 彼の容貌は不良と見えなくもなく、少し逆立てた黒髪、カッターシャツの第3ボタンまで外して彼自慢の首飾りを徐に見せていた。
 そんな彼だから誰も近寄ることなく、むしろ離れて歩いていた。
 そこで僕が見るに見かねなくて、彼のチョコバーを奢っただけなのだが……彼はその瞬間、僕を「親友」と手を握り締めて言われた。
 ただ、それだけなのに交友関係が今でも続いている。
「ま、冗談は置いといて」
 足を下ろすと、先程まで片足を乗せていた前の席に座る。
「実際、お前ら本当に三年間一緒に登校しているよなぁ。うむ、ゲームだけの話かと思ったら実際にいるもんだ」
 うむうむ、と腕を組みながら頷く。
 多分ゲームというと、恋愛シミュレーションだろう。確かに僕と留美の関係はそれに近いものだろう。
 けどゲームはゲーム。現実は現実だ。理想と現実は違うように、ゲームもまた現実とは違うのだ。
 しかしそれを言うと、啓司は「ゲームを馬鹿にするなっ!」と怒るから言わないけど。
「近所だし、幼馴染だし。ただそれだけの理由だよ」
 笑ってそう答える僕に、違うだろ、と一言。
「お前はどうしてそう鈍感か。鈍感すぎて眩暈が起きて倒れちまうぜ。そして目が覚めると俺は美人の看護婦に囲まれてウハウハに……」
 ぐふふと妖しげな笑みを浮かべる啓司。
 彼は唐突に話しが違う方向へ行く傾向がある。しかも微妙に危ない方向。
 しかもそれが無意識のうちに行われているのだからちょっと質が悪い。
 はぁ、と溜息をつくが全く気がつかない様子で啓司はさらにブツブツ言っている。
 ということで、僕はポケットから耳栓を取り出す。その名も「対田嶋啓司専用耳栓」。普通の耳栓みたいだけどね。
 これの凄いところは差し込むと何故か啓司の声だけが聞こえなくなるという優れものなのだ。
 うちの親が気紛れで開発。結構多用していたりする。
 ちなみに僕は一切頼んだ覚えはない。啓司とうちの親は会ったことがない。
 さて、どうしてこれを造ることが出来たのかだけど……秘密らしい。
 何はともあれ、早速それを耳に差し込むとやはり啓司の声だけ聞こえなくなり、他のクラスメートの雑踏だけが聞こえてくる。
 いいんだか、悪いんだか。
 ちらりと留美の方を見ると、さっき頭をぶつけたところを摩っていた。
 僕と視線がぶつかると、ばつが悪そうに手を振ってくれた。
 僕も苦笑しながら手を振り返す。
「―――それで、看護婦は俺の服を……って耳栓してるしっ!」
 それはちょうど、予鈴が鳴ったときに啓司が発した言葉だった。
 これで親友を続けている僕らは不思議だ。
 そういえば鈍感って何?


 今日は土曜日なので、授業も四時間で終わる。
 体育とか運動教科もなく、移動教室もなかったこの日はなんだかゆったりした時間でこの日の授業を終えた。
 最後に担任がHRで軽い連絡を入れ、最後に「受験生だから勉強しろ」とお決まりの台詞を残して教室を去った。
 そして放課後。
「それでだ、篤志」
 啓司の突然の来襲にも、もう慣れた。突然の前振りにも。
「今日は残念な知らせがある。と言っても俺の親が死んだとか言うのではないので香典はいらん。もらうものはもらうがな」
 そう言って手を差し出したりするが、軽く払いのける。
 むしろ僕がお金を欲しいくらいだ。親の仕送りだけではやはり生活には限度があるのだ。
「それで。残念な知らせって何?」
 軽くあしらわれたのが残念だったようだが、お気楽な性格のためパッとその考えを払う。
 その行動は彼の長所でもあり、短所でもあるところだが。そういうところは僕も見習うべき点なのかもしれない。
 啓司は言いづらそうに頬をかく。
「あぁ。今日行く約束していたゲーセンの件だが。……すまん! 今日行かなきゃならないバイトがあるのをすっかり忘れてさ、すまん!」
 そういえば、この前近くのゲームセンターで稼動した新作格闘ゲームをやりに行こうって話をしていたのを思い出す。
 別に忘れていたわけじゃないけど、こうも思い出してしまうのは忘れかけていたということだろう。
 僕の方こそごめん、と軽く心で謝ってから僕は笑う。
「いいって。啓司の忙しさはわかっているから」
「うむ、さすが我が親友だ。俺が忙しいのをよく理解している」
「それにまだ稼動から数日しか経っていないだろ? まだ未プレイヤーが多くて僕たちまで順番廻ってくるか妖しいし。急がなくてもいいんじゃない?」
「払いのけろ。さっきお前が俺の手を払ったように」
 ……もしかして、ちょっと根に持ってる?
「まぁ、確かに篤志の言うとおりだな。もう少し様子を見てから行くとするか」
 そう言うと、床に置いていた既にただ持ってきただけと徐に表している通学鞄を持つ。
 受験生なのにこの態度はどうかと思うところもあるが、ゴーイングマイウェイがモットーの彼には何も言うまい。
 んじゃ、と片手を挙げるとすぐさま教室を後にした。
 どうやらかなり急がないと駄目な仕事みたいだ。
 むしろたくさんバイトしすぎていつか倒れないか、というのが最近の彼に対する心配だ。
「……余計な心配だと思うけどね。啓司だし」
 我ながらなんて親友泣かせな台詞だ、と思う。
 そろそろ僕も帰るかと思い、立ちあがった時に留美が鞄を持ってやってきた。
「あ、あっちゃん。夕飯のおかず買いに行くんだけど……付き合ってくれるかな? えっと、用事があるならいいんだけど」
 あはは、と軽く笑う留美の意味がわからないが、今の僕に断る理由はない。
 啓司の約束は破棄されたし、それに何より留美にはお世話になっているのだ。
 だから断る理由は全くない。むしろ喜んですべきだと思う。
「うん。どうせ午後から暇だし……って朝にも同じようなこと言わなかったっけ?」
「えっ……あ、そうかも」
 またあはは、と今後は誤魔化すようにして笑う。
 僕は腕時計を見る。既に正午は過ぎている。
 そういえば昼食も食べないといけない。別に毎日三食食べなきゃいけないわけじゃないが、やはり食べた方がいいし。
 そう思ったと同時に「くぅ」と可愛い音が聞こえた気がした。
 僕ではない。
「あ、あれれ?」
 留美の顔を見ると顔が凄く赤くなっている。
 もうそれは見ているこっちが驚くくらいに赤くなって顔を伏せ、お腹を押さえているのだ。
 つまりさっきの音は―――彼女のお腹の音ということだ。
 恥ずかしさのあまりに顔が赤くなった、と。
 何故か冷静に僕は分析していた。
 周りに僕しかいないのが幸いだろう。その音は僕にしか聞こえなかったはずだ。
 僕は少し笑うと、ぽんっと留美の頭を叩いて留美だけに聞こえる声で言った。
「それじゃ、買い物前に何か食べよっか」
 自分でもなんかキザっぽいな、って思うけど彼女のためだ。
 僕は何も聞いていないという風に自然に帰りの準備をして、留美の頭をもう一回叩いた。
「うぅ……あっちゃんに聞かれるなんて、私って馬鹿」
 留美はまだ顔を赤くしながら頷くと、僕の後に続いて歩き始めた。
 途中、見知った生徒に挨拶をしながら廊下を歩いていく。
 昔は僕と留美が歩いているだけでよくからかわれていたけど、もう皆見慣れたのか何も言わなくなった。
 僕と留美にとれば嬉しいことこの上ないんだけどね。
「何食べる? 僕は何でもいいんだけど?」
 ある程度教室から離れたとき、後ろを振り返りながら聞いてみた。
「え、あ、うーん……」
 突然振られた話題に悩む留美。
 予想できた質問のはずだけど、それだけ恥ずかしさで一杯で考えられなかったのだろう。
 困惑する、これは予想できた反応の一つだ。そうなれば僕が言えることは一つ。
「とりあえずは商店街、ってことでいいかな?」






 某所。
「―――」
 少女が立っていた。
 青い、蒼い空の下で。
 何かを待つような、何かを望むような雰囲気。
 少女が立っていた。
 水に足をつけて、水に脚を付けて。
 誰かを待つように、誰かを望むような雰囲気。
「あ―――」
 声。
 その「あ」という声が本当に綺麗だった。
 だが、綺麗なのは声だけではない。
 水の色に反射するような青い髪。さらさらときらきらと輝いていて綺麗だ。
 綺麗、奇麗、綺麗、奇麗、綺麗、奇麗。
 彼女は誰もが目を惹かれる存在だ。
 だが、誰も彼女に目を向けることはない。
 矛盾している。何故か。


 彼女がいるのは陸から離れた海の上だからだ。


 浮くように浮くように水の上を歩く。
 空を見上げればカモメが飛んでいる。ふわふわと今の自分のように。
 彼女はそれを羨ましそうに眺めている。
 彼女は一言。

「つまんないなー……」

 そんな声も美しかった。




 ―――このとき、こんな二人が出会うなんて誰が予想しえたであろうか。









とむはちさん企画「俺の設定で小説書いてみろ!(狩)」です。(マテ
どこかであるような話の流れですが、作者が出来るのはこれぐらいです。
ありきたり。ありきたりすぎて飽きたでしょうが、ここまで読んでいただいて幸いです。
ちなみにこういう展開になったのは作者の責任であり、とむはちさんの責任ではありませんのでー
第2話はとむはちさんが続けろとおっしゃるのであれば続ける予定です。まぁオリジナルですので進行は遅くなるでしょうが。
それにしても色々やってしまってごめんなさい! 設定にないキャラまで作ってしまいました!
まぁ、もし次回が作れるのであればまた更にキャラが増えると思います。ごめんなさい。
つか全然次が読みたくなるような展開ではない。なんだかなぁ。
次回はもう一人のヒロイン正式登場! ……なるかなぁ(ぉ

ちなみに勝手につけたサブタイトルは依澄れい様の「Kanon&AIR スカイ」(角川書店刊)、134ページより。
つまり"飛ぶ夢をしばらく見ない"の前ページ。


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