君に詩を贈ろう。
この世で一番、優しくて力強い唄を…


delicate blue light
            Produce by Star Tale(tomuhachi)
            Written by Takumi Aoki


1/始まりの唄


 酷い寒気と頭痛によって僕は目覚めた。
 上半身だけでも起こそうとする…が、身体に力が入らない。
 仕方なくそのまま横になって、体力を回復させるのに努める。
 目の焦点が合わない、全てが滲んで見える。身体も浮遊しているような感覚しかない。
 天井が霞んで、歪んで、歪な形へと変わっていく…
(これは…まずい…)
 そう思いながら、僕はゆっくりと意識を闇へと落としていった…


 雨…
 海…
 女の子…
 歌声…
 淡い光…
 海のような髪…
 太陽のような瞳…
 君は一体…誰…?


 額にひんやりとした感触…
(…誰か、いるのかな…?)
 ゆっくり目を開けてみると…そこには、見知った顔。
「篤志、大丈夫?」
「留美…」
 幼馴染の坂城留美。生まれる前から一緒に居た、家族に近い他人。
 留美が額に置いてあるタオルを取って、別のタオルを付ける…冷たい感触が、火照った顔には気持ちいい。
「38.4℃…完全な風邪だよ。今日は一日ゆっくり寝てなきゃ駄目ね」
「留美…学校は?」
「…お休みしちゃった。篤志の看病の方が大事だからね」
 そう言って、僕から少し顔を背ける留美。心なしか頬が赤かったような気がするが、気のせいか。
(留美に迷惑かけたな…)
 申し訳ない気持ちで一杯になる…
 少し無理して部屋の隅にある柱時計を見る…午前11時、もうそろそろ昼食の準備を始める時間だ。
 ご飯の事を考えると、丁度タイミング良く僕の腹の虫が鳴る。
「篤志、お粥あるけど…食べる? 篤志の好きな塩昆布付けるけど」
「うん…食べる…」
「ちょっと待っていてね、すぐ持ってくるから」
 そう言って留美は僕の部屋から出て行った。
 僕はぼんやりと自分の部屋の天井を眺める。
 しばらくして、留美がお盆を持って帰ってきた。
「はい、熱いから気をつけて食べてね」
 留美からレンゲをもらってお粥を食べようとする…が、うまく食べれない。
 もう一度、お粥を口の中へ…しかし、お粥を少しこぼしてしまう。
「熱ッ」
 あつあつのお粥がパジャマの上に落ちる。留美が慌てて冷たいタオルでお粥を拭き取る。
「大丈夫!? 早くパジャマ脱いで、洗濯するから!」
「いや、いいよ!! 自分のパジャマだから自分で洗うよ!!」
 洗濯…僕はその言葉に素早く反応した。というのも、留美は何故か洗濯だけが壊滅的に苦手だからだ。
 他の家事…例えばこのお粥の様に食事や掃除、近所の子供の世話とかは大得意なのに…
 断りの言葉に留美の顔がみるみる泣き顔へと変わっていく。
「…篤志ちゃんは留美が洗濯するの、嫌なんだ…」
 …まずい、留美の言葉遣いが幼い頃のものへと変わってきている…これは、非常にまずい兆候だ。
 …それにしても、久しぶりに聞いたな…“篤志ちゃん”。
 いつから“篤志”って呼ぶようになったのだろう…随分昔のような気がする…
「いいもんいいもん…篤志ちゃんなんて大ッ嫌い…もうご飯食べさせてあげない」
 ちょっと昔を懐かしんでいた隙に、留美は思いッッッきり拗ねていた。やばい、手の付けようがない。
 …仕方ない、昔良く使った手を使うか…深呼吸して、僕は留美と向き合った。
「…留美ちゃん」
 留美を昔の呼び方で呼ぶ。留美がゆっくりと僕の方へと顔を向ける。
 僕は留美を怒らせないように細心の注意を払いながら話し始める。
「留美ちゃんが僕のパジャマを洗ってくれるのは嬉しいよ」
「じゃぁ、何で洗っちゃいけないの?」
「僕はパジャマのズボンに零したんだよ」
「うん」
「お粥って結構汁気があるって知ってるよね?」
「うん、それが?」
「僕のパンツまでお粥の汁で濡れちゃったんだけど…僕のパンツまで洗う?」
 時が止まった…始め、白かった留美の頬に段々赤みが帯びてくる…というか顔が真っ赤になってきた。
「あ…あ…あ…」
 言葉にならない言葉で何かを伝えようとする留美。
 そして…
「篤志の、変態ッッッッッッッ!!」
 強烈な平手打ちと共に、僕の意識も闇へと消えていった。


 ちなみにパジャマとパンツは留美によって脱がされ、洗濯され、真っ白な布と化していた…
 青色のパジャマと、薄い緑色のパンツだったはずなのに…
「あれれ? 確か、この分量で合ってるはずなのに…」
 そう言う留美の片手には漂白剤がしっかりと握られていた…


 3日後…何とか回復した僕は念の為に学校を休んだ。
 午後、特に家に居てもする事が無いので商店街へと出かけた。
 少し頭がフラフラするけど、我慢できる範囲だ。
 僕はどこに行こうか悩んだ末に…海へと続く道を歩き始めた。

 春とはいえ、海からくる風はまだまだ寒い。
「うぅ…来るんじゃなかった…」
 文句を言っても仕方ない…そう思って帰ろうとした時…
「…!!」
 聞き間違いかと思うほどだが、微かに歌らしきものが聞こえた。
 僕はその場に立ち止まり、全神経を耳に集中させる。
「…こっちだ!」
 僕は岩場の方へ全力で走っていった。

 岩場に近づくにつれ、歌声がはっきりと聞こえてくる。
(…それにしても、綺麗な歌声だな…)
 聞いたこともない音楽…でも、僕はどこかで一度聞いたことがある…
「…まさか…」
 僕は急いで岩場をよじ登る。
 そして、登りきった岩場の上でみたものは…
「嘘だろ…」

 夢の中で出会った女の子がいた…

 これが僕と彼女の物語の始まりでもあった…








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